つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#5 サイエンスライター/科学コミュニケーター 堀川晃菜さん

2022年1月25日(火)、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」最終回が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。今シーズンは、Zoomウェビナーを活用し、オンライン形式で開催してきました。今回は、大阪大学の学生を中心に22人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。




この日は、フリーランスのサイエンスライターとしてお仕事をされている堀川晃菜さんより、「サイエンスライターとしての“つなぐ”仕事」というテーマでお話を伺いました。

堀川さんは東京工業大学大学院生命理工学研究科の修士課程を修了し、農薬・種苗メーカーで総合職として勤務された後、日本科学未来館に転職し、科学コミュニケーターとして様々な企画を実施。その後、Webメディアの編集・記者を経験され、現在はフリーランスのサイエンスライターとして科学記事の執筆・編集や監修などをされています。

このような経歴の堀川さんですが、どうしてサイエンスと市民を“つなぐ”、「サイエンスライター/科学コミュニケーター」という職に就くことになったのでしょうか? ここまでの経緯を教えていただきました。

堀川さんは農薬・種苗メーカーへの内定が決まった時、周囲から「農薬の仕事なんて危なくない? 大丈夫なの?」と言われたそうです。それまでは科学技術に対して「人の役に立つもの」という見方をしていた堀川さんだったのですが、身近な人や世間の科学技術へのイメージはまた違うのかもしれないと、この時をきっかけに“モヤモヤ”とした気持ちが生まれました。

営業の部署に配属され、農薬の希釈の仕方についての問い合わせや農薬に関するクレームにも近い電話の対応をする中で、伝えることの難しさを実感し、“モヤモヤ”が膨らんでいったとのこと。また、せっかく培ってきたバイオの技術・知識が仕事には直接結びつかないというフラストレーションも抱え、自身のキャリアについて悩む日々を過ごしていたそうです。

そんな中、偶然読んだ漫画や雑誌をきっかけに、日本科学未来館、そして、科学コミュニケーターという職業を知り、応募。科学コミュニケーターとして新たなキャリアを歩むことになりました。

日本科学未来館では、展示フロアに出て来館者のみなさんとお話をしたり、研究者をゲストに招いたイベントを企画したり。2012年から2015年まで、科学コミュニケーターとして、多様な経験を積まれたそうです。

人と直接関わることの多い「科学コミュニケーター」から、文字を通して多くの人に科学や技術について発信する「サイエンスライター」へと“つなぐ”形態を変えたきっかけとなったエピソードについても紹介していただきました。その一つは、業務として執筆していた科学コミュニケーターブログです。科学にもっと親しんでもらいたいと伝え方に工夫を凝らす中で、表現する楽しさを知り、読者からの反響も励みになったと言います。

また、堀川さんは同僚の科学コミュニケーターとある科学漫画の監修にも携わりました。ある日、電車に乗っていると、たまたま目に入った男の子が食い入るように堀川さんが監修に関わったその本を読んでいたのだそうです。その時の喜びが忘れられず、本を通じて多くの人とつながることに魅力を感じたと言います。これがサイエンスライターになろうと思った大きなきっかけになったとお話されていました。

また、日本科学未来館には、個性豊かで、多彩なバックグラウンドを持った同僚がいました。そんな同僚たちに知的好奇心を刺激される日々を送る中で、「科学する人の魅力」も伝えたいと思うようになったというお話もありました。

日本科学未来館にいる間から少しずつ、ブログや新聞記事の寄稿など執筆の経験を積み、副業でも雑誌やウェブメディアで執筆するなど、サイエンスを文字で伝えるお仕事を徐々に増やしていった堀川さん。日本科学未来館の“卒業”後は、編集者の仕事も経験し、その後サイエンスライターとしてのキャリアを本格的に歩むことになったそうです。

現在は、フリーランスとして、書籍やウェブで記事を執筆したり、編集や監修をしたりといったお仕事をされています。例えば、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の成果を伝えるウェブサイトWPI Forumにも堀川さんが取材・執筆された記事が掲載されています。最新の研究内容を紹介するだけではなく、その研究にかける科学者の思いなどを伝えることにやりがいを感じているそうです。

最初はモヤモヤや苦悩から科学コミュニケーターとしてのキャリアをスタートさせ、その後、心に残る感動や刺激的な日々を経て、サイエンスライターという職に就いた堀川さん。「自分が市民の皆さんとサイエンスを“つなぐ”ことができるのは、表からは見えにくい運営者や企画者、そして研究者の存在があるからだ」とお話され、“つなぐ”仕事に関わる方々への敬意と感謝でお話を締めくくられていたのが印象的でした。

質疑応答の時間では、参加者から、サイエンスライターとしての働き方に関する質問や、科学コミュニケーターとして求められる資質に関する質問などが挙がりました。堀川さんは、たくさんの質問に丁寧に回答してくださいました。

私は「学部生や修士課程の頃の研究生活は、科学コミュニケーターとしての仕事/振る舞いにどのような影響を与えていますか?」という質問をさせていただきました。これに対し、堀川さんは「知識は後からでも身に着けることができますが、研究に取り組んだ経験から得た実感は大きな財産です。私も大学院で研究していた頃、実験で仮説を証明することができ『目の前の現象を知っているのは、いま世界で自分だけかもしれない』とゾクゾクした感覚を味わいました。それが未知に挑む研究者を応援したい気持ちや“サイエンスの魅力を伝えたい”という原動力に繋がっていると思います。」と回答してくださいました。

私は将来、高校教員として生徒にサイエンスの面白さを伝えたいと思っています。堀川さんのお話をお聞きし、改めて「今の研究生活を楽しもう、形は違えど自分も“つなぐ”仕事がしたい」と思いました。

文:野村 卓矢(大阪大学大学院理学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」の第5回を2022年1月25日(火)に開催します。



今シーズンは、日本科学未来館にゆかりのある方々をお招きしています。
最終回のゲストは、フリーランスとしてお仕事をされている堀川晃菜さんです。


■第93回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#5
○ゲスト:堀川 晃菜 氏(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
○日時:2022年1月25日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○参加費:無料

○申込方法:以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.office.com/r/GFnVsGHGEf)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「サイエンスライターとしての“つなぐ”仕事」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール
堀川 晃菜 氏(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
東京工業大学大学院生命理工学研究科修了。大学時代の研究の相棒は大腸菌。農薬・種苗メーカー、日本科学未来館の科学コミュニケーター、Webメディアの編集・記者を経て、現在はフリーランス。サイエンスライターとして執筆する他、科学記事の編集や監修などにも携わる。著書に『バイオ技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、2020年には科学絵本『どうなってるの? ウイルスと細菌』(ひさかたチャイルド)を監修。現在、雑誌Wedgeで「知られざる高専の世界」を連載中。


○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター

本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。


「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月14日(火)日本科学未来館 森田由子さん
http://stips.jp/20211214/
#2 12月21日(火)JST 研究開発戦略センター(CRDS) 嶋田義皓さん
http://stips.jp/20211221/
#3 1月11日(火)一般社団法人SiCP/中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部 桑子朋子さん
http://stips.jp/20220111/
#4 1月18日(火)静岡科学館る・く・る 代島慶一さん
http://stips.jp/20220118/
#5 1月25日(火)サイエンスライター/科学コミュニケーター 堀川晃菜さん
http://stips.jp/20220125/


フライヤー(PDF:516KB)