つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#2 JST 研究開発戦略センター(CRDS) 嶋田義皓さん

科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」第2回を、2021年12月21日(火)に実施しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーを活用し、オンライン形式で開催したこの回には、大阪大学の学生を中心に15人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。





第2回のゲストは国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の嶋田義皓さんでした。嶋田さんは、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程を修了後、日本科学未来館で科学コミュニケーターとして展示解説や実演、展示の企画に携わりました。例えば、ドラえもんをテーマにした展示(「ドラえもんの科学みらい展」)の企画を担当されたそうです。

その後、JST戦略研究推進部でIT分野の研究プロジェクトの立案・管理・広報などの業務に従事され、現在は、JST 研究開発戦略センターでお仕事をされています。ノーベル物理学賞発表の時期には、NHKのニュース内で解説を経験したこともあるそうです。また、2019年には、政策研究大学院大学で2つ目の博士号(公共政策分析の分野で)を取得されています。

嶋田さんからは、まず、JSTの全体像について、また、研究開発戦略センター(CRDS)の役割についてご説明いただきました。CRDSはウェブサイトに「科学技術イノベーションのナビゲーターを目指すシンクタンクです」とも書かれているように、科学技術にまつわる情報を収集したのちに、各省庁や産業界に向けて各種の提案や情報提供を行っています。「日々、多様な分野・多様な職の人々とつながって仕事をしている」とのことでした。

CRDSでの具体的な仕事例として、「研究開発の俯瞰報告書」の作成についてご紹介いただきました。「研究開発の俯瞰報告書」とは、4つの分野(環境・エネルギー分野、システム・情報科学技術分野、ナノテクノロジー・材料分野、ライフサイエンス・臨床医学分野)について、国内外の動向をまとめて出版するもので、2年に一度作成されるものです。戦略提言や施策のベースになるような情報を作るお仕事です。

嶋田さんは、この俯瞰報告書を面白い比喩で説明をされていました。研究支援制度や研究プロジェクトが「フルーツタルト」だとしたら、この俯瞰報告書を作るのは「まずこの世にどのようなフルーツがあるのか、どういう位置関係にあるのかを調べること」だと説明されていました。そこから、「どれとどれを使うとよいだろう」とフルーツ盛りの絵を描き(=戦略提言)、最終的にどのようなタルトにするのかは菓子店(=省庁)が決める(=施策として意思決定される)という流れだそうです。施策のもとで研究が行われ、実際に「フルーツタルトになったものを食べる」状態になるまでには、報告書が出てから何年もかかるとのこと。

科学と社会を「つなぐ」ことについて、またそのヒントについて、それぞれの項目ごとにお話しいただきました。その前提として、まず、科学技術と「つなぐ人」に対する嶋田さんの考え方についてお話いただきました。「科学と社会が独立して存在し、その間をつなぐ」というものではなく、「社会という大きなくくりがあり、その中に科学や法律など様々な要素が包括されているようなモデル」と考えている。また、科学コミュニケーターという“仕事”はなく、科学技術コミュニケーションという“学理”もない。科学技術コミュニケーションというのは能力やスキルであるという考えを提示されていました。

そして、この科学技術コミュニケーション能力は、「『高次元空間のベクトル』なのではないだろうか。みんな違う方向性をもち、成熟度も多様であり、ニーズに合わせて“引き出し”も変化するのではないだろうか」と述べられていました。「読み」「書き」「そろばん」に加えて、「科学技術の知識」と「科学技術への愛」、そして、応用力として「空想力」「現実力」「感情力」というものがあるのではないかと。これらの能力が発揮される活動やコンテンツはまだまだニーズを掘り起こすことができるのではないか、日々の仕事に埋め込むこともできるのではないか、というのが嶋田さんの考えでした。

この後は、嶋田さんの過去のお仕事事例の紹介を絡めつつ、「つなぐヒント」をいくつかご紹介いただきました。

・「動くものに飛びかかれ」
「量子コンピュータ」に関わる分野に動きがありそうと判断し、戦略プロポーザル「みんなの量子コンピューター」の企画から作成までアクティブに動かれた経験が紹介されました。既に確立された領域ではなく、まさに今、“動いている”時に“飛びかかった”からこそ得られる知見もあるというお話でした。

・「情報は発信者に集まる」
戦略プロポーザル「みんなの量子コンピューター」を作成して、関係者に発信したことで、相手から貴重な情報が得られたという経験をもとに、「情報は発信者に集まる」ということについても説明していただきました。“生煮え”でも発信することの重要性を教えていただきました。提言書を将来受け取ることになる省庁の担当課などに、作成中にも頻繁にコンタクトを取ったり、専門家向けには講演を企画したり、一般向けにはウェブに記事を掲載したりと、対象と目的に合わせた発信の仕方を工夫されているとのことでした。

また、物理とコンピューターサイエンスの橋渡しとなるような教科書『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで(情報処理学会出版委員会 監修)』を執筆された経験についてもご紹介いただきました。教科書作りは日本科学未来館での展示づくりに似ている!今までの経験が活きた!という気付きがあったということもお話しされていました。

・「専門性は市場が決める」
NHKでのノーベル物理学賞報道に関わった経験を例に、専門性は自分から発信するものではないのでは、というお話もありました。「(物理学の)どの分野がノーベル賞の受賞対象になっても解説ができそうな人」ということで、JSTの先輩に推薦され、2014年に初めてNHK報道センターに呼ばれたそうです。専門分野の真ん中ではなくても、情報の受け手からすると「物理学のさまざまな研究に詳しい」専門家であり、十分その役割を果たすことができる、と。


質疑応答の時間には、次のようなやりとりがありました。

Q. 行政機関で働く人の中に、研究開発現場の温度感がわかる人はどれぐらいいるものなのでしょうか。
A. 省庁で働く人たちは、定期的な人事異動があるので、行政官には「ジェネラリスト」が多い。ただ、興味を持って勉強したり理解しようとしたりるする人は一定程度いる。

Q. 情報発信にコツはありますか?
A.今日の話に出した「情報発信」というのは、広くいろんなところに、多方面に発信するという意味ではなくて、情報を収集することを目的とした情報発信のこと。気をつけているのは「声をかける人は慎重に選ぶ」ということで、「その人がどうみているのかを知りたい。その人の考え方を知りたい」という人に声をかけるようにしている。

文:戒能 匠(大阪大学大学院工学研究科 博士前期課程 1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」の第2回を2021年12月21日(火)に開催します。



今シーズンは、日本科学未来館にゆかりのある方々をお招きしています。
第2回のゲストは、JST研究開発戦略センター(CRDS)の嶋田義皓さんです。

■第90回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#2
○ゲスト:嶋田 義皓 氏(国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS) システム・情報科学技術ユニット フェロー)
○日時:2021年12月21日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○参加費:無料

○申込方法:以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.office.com/r/GFnVsGHGEf)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「科学と社会の界面で」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール
嶋田 義皓 氏(国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS) システム・情報科学技術ユニット フェロー)
博士(工学、公共政策分析)。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。日本科学未来館で科学コミュニケーターとして展示解説や実演・展示企画に、JST戦略研究推進部でIT分野の研究プロジェクトの立案・管理・広報などの業務に従事後、2017年より現職。専門分野は、物性物理、科学コミュニケーション、ICT、科学政策。「百聞は一見に如かず」がモットー。著書に 『量子コンピューティング 基本アルゴリズムから量子機械学習まで(情報処理学会出版委員会 監修)』(オーム社、2020)。


○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)


本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。


「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月14日(火)日本科学未来館 森田由子さん
http://stips.jp/20211214/
#2 12月21日(火)JST 研究開発戦略センター(CRDS) 嶋田義皓さん
http://stips.jp/20211221/
#3 1月11日(火)一般社団法人SiCP/中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部 桑子朋子さん
http://stips.jp/20220111/
#4 1月18日(火)静岡科学館る・く・る 代島慶一さん
http://stips.jp/20220118/
#5 1月25日(火)サイエンスライター/科学コミュニケーター 堀川晃菜さん
http://stips.jp/20220125/


フライヤー(PDF:516KB)