つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#1 日本科学未来館 森田由子さん

2021年12月14日(火)、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」がスタートしました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーを活用し、オンライン形式で開催したこの回には、大阪大学の学生を中心に15人が参加しました。




第1回目のゲストは日本科学未来館 科学コミュニケーション専門主任の森田由子さんでした。森田さんには、まず、博士号を取得してから大学や企業での研究職等を経て日本科学未来館(以下、未来館)の科学コミュニケーション専門主任になられるまでの経歴について、次いで未来館での仕事がどのようなものかについて、お話しをしていただきました。その後、参加者からの質問に応えつつ、ここまでのお話の内容を掘り下げるような説明を加えてくださいました。

まずは、森田さんによる自己紹介から。森田さんは、東京大学理学系研究科生物科学専攻で博士号を取得されました。当時は、アブラムシや寄生バチ等の昆虫を材料として、組織学や細胞生理、内分泌といった切り口から、共生・寄生のしくみについて研究されていたそうです。その後、東京大学で2年ほど助手としてカイコの発生・内分泌の研究に従事。助手の任期終了後は、抗がん剤開発の基礎研究などを行う外資系製薬会社の研究職に就かれました。

その後、結婚をきっかけに転職を決意され、特許事務所やベンチャー企業等も考えた末に、未来館の科学技術スペシャリスト(現・科学コミュニケーター)に転職。5年という任期の間は、展示をつくるための調査や企画提案等のお仕事をされていたそうです。その後、お茶の水女子大学で非常勤講師を1年経験し、再び、未来館に科学コミュニケーション専門主任として戻られました。

次に、未来館について、また、未来館でのお仕事について、詳しく紹介していただきました。未来館は、「科学技術を文化として捉え、私たちの社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」を設立の理念としています。未来館は、「科学を伝える」(科学技術に関した展示をする・情報発信をする)だけでなく、「人材を育てる」(科学に関して一般の人達にわかりやすく伝え、また先端科学技術と社会の在り方について一般の人達と専門家とをつなぐことのできる科学コミュニケーターの育成をする)ため、そして、「つながりをつくる」(研究者や技術者、来館者、学校、国内外の科学館、産業界など社会のさまざまな人達とのネットワークを形成する)ための、「プラットフォーム」だそうです。

展示の企画から設計、制作までの具体的なプロセスについてのお話もありました。常設展示は、一度作ると5〜10年程度は展示されるそうですが、未来館内部のチーム(科学コミュニケーターや専門主任、マネージャーや展示技術担当など5〜10名)で企画内容を固めるのにおよそ1年、外部の人を交えた基本設計及び実際の展示場の施工設計と制作におよそ1年〜1年半。2年〜3年がかりで準備を進めるそうです。来館者が実際に手を動かして体験できるようにしたり、来館者から意見を集められるような端末を設置したりという工夫をされているそうです。映像での解説にたよりがちな展示になってしまっているのが今後の課題とおっしゃっていました。

そのほか、展示以外の取組としては(現在は未来館外での活動になっているそうですが)、大学院生や研究者、小中高の教員向けの科学コミュニケーション研修の実施があるそうです。また、専門家の監修を受けて科学館・博物館向けの新型コロナ対策ガイドラインを作成したり、科学コミュニケーション関連の調査を実施したりすることもあるそうです。

展示制作においても、調査実施においても、未来館内部だけでなく外部の専門家等様々な人の協力が不可欠であり、「自分で全部を抱え込むのではなく、より良いアウトプットを出すために、誰かと誰かをつなげることに力点をおいていきたい」と森田さんはお話されていました。


質疑応答の時間には、次のようなやりとりがありました。
Q. 科学コミュニケーターに必要なスキルは?
A.「課題を見つける感覚」や「自分に足りない能力を補ってくれる、タッグを組める相手を探せる能力」が重要だと感じている。

Q. キャリアチェンジの経験は今にどう生きているのか?
A. 研究自体は好きですが、それを職業とすることへのこだわりがあまりなく、教育関連の仕事にも関心があった。また、複数の研究分野を経験したことで、様々な分野の専門家とのネットワークを作れたことや、各分野の相場観が得られたことが今の仕事でプラスになっている。


今回のセミナーを通じて、日本科学未来館の活動について深く知ることができました。また、博士号取得後の研究職以外のキャリアパスについて視野を広げて考えるきっかけにもなりました。

文:高木 悠司(大阪大学大学院理学研究科 博士後期課程 1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」の第1回を2021年12月14日(火)に開催します。

今シーズンは、日本科学未来館にゆかりのある方々をお招きしています。



初回のゲストは、今、日本科学未来館で、科学コミュニケーション専門主任として、館内の展示やアクティビティの調査や活動計画のレビューなどを担当されている森田由子さんです。


■第89回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)#1
○ゲスト:森田 由子 氏(日本科学未来館 事業部 経営戦略室 科学コミュニケーション専門主任)
○日時:2021年12月14日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○参加費:無料

○申込方法:以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.office.com/r/GFnVsGHGEf)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「科学コミュニケーションのフレームを考える」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール
森田 由子 氏(日本科学未来館 事業部 経営戦略室 科学コミュニケーション専門主任)
日本科学未来館科学コミュニケーション専門主任、博士(理学)。東京大学大学院新領域創成科学研究科助手、製薬会社研究員、お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーションセンター非常勤講師を経て、2012年から未来館で勤務。


○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター

本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。


「つなぐ人たちの働き方(2021年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月14日(火)日本科学未来館 森田由子さん
http://stips.jp/20211214/
#2 12月21日(火)JST 研究開発戦略センター(CRDS) 嶋田義皓さん
http://stips.jp/20211221/
#3 1月11日(火)一般社団法人SiCP/中外製薬株式会社 デジタル戦略推進部 桑子朋子さん
http://stips.jp/20220111/
#4 1月18日(火)静岡科学館る・く・る 代島慶一さん
http://stips.jp/20220118/
#5 1月25日(火)サイエンスライター/科学コミュニケーター 堀川晃菜さん
http://stips.jp/20220125/


フライヤー(PDF:516KB)