本拠点の特色

大阪大学・京都大学は総合大学として、人文社会科学から自然科学・工学・医薬農学にわたる、日本有数の研究者集団を擁しています。それを背景として、研究の現場から不断にフィードバックを受け、教育に反映させることができる点が、本拠点の大きな特色となります。両大学が連携することにより、幅広く科学技術の研究現場の動向を踏まえつつ、ELSIに関する人文社会科学的な研究と教育を進め、臨場感と俯瞰的・長期的な視座を備えた政策のための科学の人材育成が可能となります。

また大阪大学・京都大学は、関西圏の経済界や地域行政との関わりも密接であり、科学技術を通じた連携・交流が極めて盛んです。これに加えて、一般市民やNGO/NPOなど市民社会の公共的関与活動への参画を促進することにより、地域社会のニーズや事情、課題をより的確に反映した科学技術政策や研究開発の立案・企画に貢献することができます。このことは、政策のための科学の人材育成にとっても意義があると考えられます。

公共的関与の研究と実践活動について、本拠点、特に大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(以下、CSCD)は、2005年の設立以来、日本における公共的関与に関する研究と実践の中核を担い、研究プロジェクトや社会実践を数多く行ってきました。また、それらの社会実践と連動する形で、文系・理系を問わず、大阪大学の全研究科の大学院生向けに科学技術コミュニケーション教育を実施し続けています。加えて、CSCD全体では、科学技術に限らず、医療福祉、地域コミュティ、芸術など多領域にわたって、大学の知と社会の知をつなぐ「社学連携」の実践と、そこに学生が主体的に関与することも含めた教育を実施しています。本拠点では、このような活動ならびに教育の基盤をもとに、公共的関与に関する理論的かつ実践的な能力を備えた人材育成を進めていきます。

他方、政策形成における公共的関与の活動と分析をより効果的で有意義なものにするためには、科学技術の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する研究と教育が不可欠です。ELSI研究は生命科学において誕生し、それ以降、情報通信技術、ロボット工学、ナノテクノロジー、エネルギーや原子力、環境、資源、防災・減災など、科学技術が関連する多様な分野・領域を対象としてきました。大阪大学・京都大学は、ELSI研究・教育の発祥地である生命科学・医学領域での豊かな研究・教育の蓄積を持っています。この蓄積を基盤として、幅広い領域を対象にしてELSIの研究・教育を進めることによって、テクノロジーアセスメントなどの公共的関与の活動と分析は、より多角的で深い洞察をもつものと考えています。