つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)#3 京都大学学術研究支援室 URA・白井哲哉さん


2019年7月2日(火)、京都大学学術研究支援室の白井哲哉さんをお招きして、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」第3回を開催しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。この日の会場(大阪大学豊中キャンパス全学教育推進機構ステューデントコモンズ2階セミナーA室)には、授業履修生以外にも、URAに興味のある大学院生や学外からお越しの方など計31人が参加しました。

今回のセミナーに関して、参加していた2人の学生が開催レポートを書きました。以下、それぞれの視点で切り取った当日の様子です。どうぞご覧ください。

・1人目の開催レポート
白井さんには「『研究』をつなぐURAの仕事」というタイトルで、40分ほどの話題提供をして頂きました。主な内容は、白井さんの自己紹介、URAとはどういう職業なのか、京都大学においてURAはどのような仕事をしているかについてでした。

白井さんは岡山大学大学院理学研究科で生命科学を学び、博士(理学)を取得しました。その後、京都大学で6年間、生命科学における倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する研究・教育を行っていました。その一環として、「ゲノムひろば」という最先端のゲノム研究者と市民をつなぐイベントの運営にも関わってきました。2012年からは京都大学学術研究支援室のURAとして、大学の研究力強化を担う仕事に従事しています。

近年、多くの研究者が煩雑な事務作業を行っており、研究活動に十分な時間を割くことができなくなっていると言われています。そのような状況のなか、2010年以降、文部科学省の事業によってUniversity Research Administrator(URA)とよばれる大学/研究機関の研究力強化を専門的に行う専門職の設置が進みました。現在ではURAという職種の人材を雇用している機関は100近く、そして、URAの人数1000人を超えるまでに拡大しました。京都大学では全国の大学に先駆けて2012年に学術研究支援室を設置し、8人のURAを雇用しました。この日のゲスト白井さんは学術研究支援室の立ち上げ当初から関わり、現在は企画広報グループの副グループリーダーをされています。
米国ではURAは、数10年の歴史を持つ専門職として扱われているそうですが、日本においてURAという職種は大学によって事業内容と規模が全く異なります。大学によっては1桁の人数であったり、産学連携など特定の領域に絞った活動をしていたりするなどの違いがあるようです。京都大学の場合は、研究者を支援する仕事、大学の経営戦略を考える仕事、そして、URAの活動基盤を整える仕事など、URAが担っている仕事は多岐にわたっています。その業務においては、学内の研究者だけではなく、企業や官公庁、一般市民など多様な利害関係者とのかかわりが求められるそうです。

京都大学のURAは全国最大規模で約50人。この50人の中には多様な背景を持った人が含まれており、今まで大学で研究を続けてきた人だけではなく企業や官公庁の出身者など多様な人材が採用されています。この多様性が専門的に研究支援を行うための一つの強みになっています。以前は本部と部局にURAが別々に配置されていましたが、多様性という強みを生かすために現在は1つの組織として活動しているそうです。

URAという職を定着させ優秀な人材を採用・育成するための取り組みも行っており、例えば人材獲得のためにURA専用の職位制や任期無し職員への登用を行っています。内部でのジョブローテーションや外部出向など、50人という規模を活かした取り組みだけでなく、個々のURAの能力UPに向けたURA研修制度の導入など、URAとして一定の質を保つための取り組みも行っているとの説明がありました。

学問の自由を尊重しつつ大学改革を進め、研究者・事務職員以外の第3の大学構成員としての地位を確立するための様々な努力をされていることがわかりました。

白井さんの話題提供に続き、質疑応答とディスカッションが行われました。大学という組織において新しい職種であるURAが受け入れられるまでの過程や、URAが安定的に働き続けるための制度改正、URAが担っている役割の大学ごとの違いなどについて会場から多くの質問があり、活発な議論が行われました。

文:桑江 良周(人間科学部)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


・2人目の開催レポート
白井さんは、岡山大学大学院で生命科学を学び、博士号を取得後、京都大学大学院生命科学研究科 特任助教、京都大学人文科学研究所 特定助教を経て、2012 年より京都大学学術研究支援室(KURA)でリサーチ・アドミニストレーター (University Research Administrator: URA)として働いています。この日の前半部分では白井さんから、URAが担っている具体的な仕事内容やKURAという組織についてお話しいただきました。
まずはじめにご自身のキャリアについてご紹介いただきました。岡山大学で生命科学分野の研究をされていた白井さんは、この先、生命科学の研究者として生きていくための「武器」が欲しいと考えていました。そこで、科学と社会の関係を考えたり、生命科学の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について考えたりする研究分野に足を踏み入れたのだそうです。当時は、生命科学の研究者に戻ることを考えていたそうですが、次第に生命科学を含む学術研究がおかれている研究環境を改善したいと考えるようになり、京都大学でURAとして働くことになりました。KURAの立ち上げメンバーの1人です。

URAとは、「大学等において、研究者とともに研究活動の企画・マネジメント、研究成果活用促進を行うことにより、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化等を支える業務に従事する人材」(文部科学省のウェブサイトより)のことです。URAという職種は海外では古い歴史がありますが、日本では2012年から文部科学省が主導をして整備を始めました。URAの数は増えてはいるものの、人材は不足しているという現状だそうです。

京都大学では研究力強化を目的に、KURAが設置されました。現在では、約50人のURAが働いており、その専門分野や年齢構成などバックグラウンドは多様です。本部に属するURAと学内それぞれの部局に属するURAに分かれて仕事をしていた時期もあったそうですが、現在では一体的な活動を行うことができるように、京都大学のURA全員がKURA所属になるような体制をとっているそうです。一元化したことによって、URA間の連携がしやすく、そして、速やかな情報共有ができ、また、URAの育成するための環境を整えることもできるようになったそうです。

KURAの業務内容は、主に3つ。1)研究者を支援すること、2)大学の経営や戦略を考えること、だけでなく、3)URAが活動できる基盤を整えること、が挙げられます。

具体的には、以下の通りです。
1)研究者を支援すること
・競争的資金と研究者の適切なマッチングを行う
・学際研究やビックプロジェクトなどの立ち上げを支援するための学内ファンドを設計する
・国際的な共同研究を支援する
・産官学連携を支援する(ニーズとシーズのマッチングを行う)
・研究成果の社会還元を行う
など

2)大学の経営や戦略を考えること
・大学の研究力を分析する
・大学の経営戦略の企画・立案を支援する
など

3)URAが活動できる基盤を整えること
・「URA」そのものについて知ってもらうための広報を行う
・URA育成カリキュラムを実行する

大きな大学では、部局間の連携がしにくい状態にありますが、組織間の連携が十分に行われるように、KURAが各部局と本部事務組織などの全学研究支援組織のハブとしての機能を担っているそうです。学内での新しい事業を立ち上げるときには、現場でのすり合わせをきちんと行うことを心がけているそうです。

講演後は活発な議論が行われ、URAについて理解を深める有意義な時間でした。
KURAは大学内の構成員(執行部や事務職員や研究者)をつなぐ役割だけでなく、研究を他大学や省庁、企業、市民ともつなぐ組織で、仕事内容が多岐にわたることが印象的でした。

文:佐藤 瑞華(理学研究科生物科学専攻 博士前期課程)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
2019年7月2日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズにおいて、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」の第3回を開催します。
今回のゲストは、京都大学学術研究支援室 URAの白井哲哉さんです。

博士課程までライフサイエンス系の研究室で過ごす中で、研究現場にある多くの課題に出会った白井さん。「好きな研究ができる環境を作ること」に興味を持って、今のURAという職に携わるようになりました。
今回は、大学で行われている研究と社会とをどのようにつないでいるのか。
具体的なお仕事の内容(と、熱い想い)をお伺いします。



■第52回STiPS Handai研究会 ○題目:つなぐ人たちの働き方(2019年度夏) #3
○ゲスト:白井 哲哉 氏(京都大学学術研究支援室(KURA)企画広報グループ 副グループリーダー/URA)
○日時:2019年7月2日(火)14:40~16:10(開場 14:30)
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
 ステューデント・コモンズ2階 セミナー室A

○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
この「ウェブフォーム」への入力をお願いします。
または、
件名を「7月2日参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター


概要 科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論します。

大阪大学COデザインセンターが開講する2019年度夏学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。


プログラム 1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「『研究』をつなぐURAの仕事」
3)質疑応答&ディスカッション
ゲストプロフィール 岡山大学で博士号を取得(生き物の体のつくられ方を遺伝子レベルで明らかにする研究をしていた)。
その後、京都大学大学院生命科学研究科 特任助教、京都大学人文科学研究所 特定助教を経て、2012 年より京都大学 学術研究支援室(KURA)でリサーチアドミニストレーターとして働く。
KURAでは「研究広報」「学際融合研究」を主に担当。日本のURAコミュニティの確立にも従事。


本シリーズについて 「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」は以下のようなスケジュールで実施します。


#1 6月18日(火) NHKエデュケーショナル プロデューサー・竹内慎一さん
#2 6月25日(火) 株式会社毎日放送 報道局 記者・奥西亮太さん
#3 7月2日(火) 京都大学 学術研究支援室 URA・白井哲哉さん
#4 7月9日(火) 大阪府健康医療部 食の安全推進課・西岡麻須美さん
#5 7月16日(火) 科学コミュニケーター(フリーランス)・本田隆行さん

Flyer_190618-0716(PDF: 381KB)