つなぐ人たちの働き方(2019年度夏) #1 NHKエデュケーショナル・竹内慎一さん



2019年6月18日(火)、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」の第1回を開催しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。今回は、NHKエデュケーショナルの竹内慎一さんをゲスト講師としてお招きし、「わからないことの面白さ」を伝えることについて、自身のご経験やご意見を紹介していただきました。このセミナーには、大阪大学・京都大学の学生、教職員に加えて、学外からの参加者など37人が集まりました。

今回のセミナーに関して、参加していた2人の学生が開催レポートを書きました。以下、それぞれの視点で切り取った当日の様子です。どうぞご覧ください。

・1人目の開催レポート
これまでに「ためしてガッテン」「大科学実験」「考えるカラス〜科学の考え方〜」など、多くの科学番組の制作に携わってきた竹内さん。学生の頃は森林動物学の研究室で過ごしたそうです。NHKに就職した当時は、大学院とマスコミのギャップに戸惑ったこともあったとか。番組制作にあたっては、科学の何を伝えるべきか?どう伝えるのか?ということを考えていらっしゃるそうです。

例えば、小学校3年生向けの番組「ふしぎいっぱい」(2002年から2005年頃に放送)では、当時普及しつつあったインターネット上の掲示板で視聴者が考えたことを募集し、番組は集まった考えを発表する場として活用するなど、これまでの理科教育番組の常識を覆すような新しい取り組みを行いました。

他にも、「大科学実験」という番組(2010年から現在まで放送)では、「やってみなくちゃわからない、大科学実験で。」というキャッチコピーのもと、教科書に書いてある事実を実際に(大規模な実験で!)確かめてきました。この日の会場では巨大テーブルクロス引きの動画(「リンゴは動きたくない!?」)を紹介していただき、セミナーの参加者からは感嘆の声が上がっていました。大規模な実験には失敗がつきものというお話も伺い、番組制作の大変さを知ることができました。

次に竹内さんが制作した「考えるカラス〜科学の考え方〜」(2013年から現在まで放送)は、その名の通り「科学の考え方」を学んでほしいというコンセプトの番組です。番組の最後にある「蒼井優の考える練習」というコーナーでは、毎回、蒼井優さんが実験をしてみせた後、「どうしてそうなるのか」という解説をし始めたところで番組が終了してしまいます。答えは公式ウェブサイトにも載っていません。子どもから大人まで、みんなで科学を考えてほしい、という思いが感じられます。しかし、このような斬新なスタイルには、一部「わからないことで理科嫌いを増進させる」というように批判的な考えを持つ方もいらっしゃるそうです。一方で「話しながら結果を考えることで夫婦の会話が増えた」といった嬉しい反響も多く寄せられたそうです。これらに共通して含まれていた言葉は、「もやもやした」というもの。みんなが「もやもや」を楽しいと思えるような、正しい「もやもや」を抱いてもらうことが竹内さんの狙いだそうです。

竹内さん曰く、今の子どもや大人たちは「わからないことへの恐怖感」を持っているとのこと。子どもたちが「わからないこと」への恐怖感や罪悪感を持たないようにするためには、大人たちが「わからない」と言う勇気をもち、一緒に学ぶことのできる環境づくりを行っていくことが必要です。それを実現するために、竹内さんはこれからも「わからないことの面白さ」を伝える番組を作り続けるそうです。

後半は竹内さんに会場からの質問にお答えいただきました。「理科が嫌いな人にはどのようにアプローチしようとしているのか?」という質問には、「考えるカラス〜科学の考え方〜」を例にご回答をいただきました。この番組は、「答えは誰も知らない」というスタンスなので、理科があまり得意でない先生でも、「教えなければ」というプレッシャーから解放され、「子どもと一緒に考える」ことができるということで、多くの小学校の教員が授業の中で使っているそうです。特に、現在は「アクティブ・ラーニング」が推奨され、先生と児童・生徒の関係も変わってきています。先生が児童・生徒と一緒に考えることが重視されるようになっている今、「わからないから理科は嫌い」という子どもたちを少しでも減らしたいという想いを持たれていました。

竹内さんは「わからない」を「面白い」に変えるため、テレビというメディアを最大限に活用されていると感じました。

文:渡邉 大樹(基礎工学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員




・2人目の開催レポート
この日のゲストは、NHKエデュケーショナルでプロデューサーとして活躍されている竹内慎一さんでした。もともと大学・大学院在籍中は動物生態学を専攻していた竹内さん。科学の魅力を広くわかりやすく伝える仕事ができないかと考え、NHKに就職されました。近年は「大科学実験」「考えるカラス~科学の考え方~」「カガクノミカタ」などの科学教育番組や、不登校・多様な学びについて扱った番組を中心に制作されています。

竹内さんには、今まで関わってきた番組を順番にご紹介いただきました。「なぜその番組を作ろうと思ったのか」、「どういう工夫を凝らしたのか」といった点を交えながらのお話でした。

竹内さんも、最初は教科書に準拠した番組制作をしていました。伝える内容は学習指導要領に記載されていることと決まっていて、その内容をいかにわかりやすく伝えるかということにのみ注力したものでした。しかし、徐々に、独自のコンセプトをもつ番組を企画するようになったのだそうです。

「大科学実験」(2010年から現在まで放送)はそのうちの1つです。誰もが当たり前だと思っている科学の知識は本当に正しいのか、実際やってみたらどういうことが起こるのか、というところに焦点を当てている番組です。この番組では、実際に大規模な実験をしてみせ、視聴者に手触り感や納得感を得てもらうような工夫をしたとのことでした。

その後、竹内さんが制作した番組が、「考えるカラス~科学の考え方~」(2013年から現在まで放送)です。科学に対して自ら考える姿勢が重要であると考え、企画しました。この番組では、単に知識を伝えることはしていません。番組の中で「考えてみる」実践ができる内容になっています。そして、番組を見ているなかで湧き上がる疑問への答えは番組内では決して明かされません。

この「考えるカラス」制作のきっかけの1つを紹介していただきました。竹内さんは2011年の秋、東日本大震災で起こった原発事故を踏まえて企画されたシンポジウム(サイエンスアゴラシンポジウム「科学・技術でわかること、わからないこと」)に聴衆の1人として参加されたのだそうです。その中で、パネリストの1人が、「『ためしてガッテン』という番組があるが、簡単に“ガッテン”してはだめなんじゃないか」という発言をしました。『ためしてガッテン』の番組作りにも関わったことのある竹内さんはフロアから思わず発言してしまい…。それがきっかけで、次年度に開催された続編のシンポジウムにはパネリストとして呼ばれることになりました。そこでは、科学の知識は絶対ではなく、覆されることもあるということをどのように伝えていくことができるだろうかという議論をすることができたということでした。

一見不親切ともいえるこの「考えるカラス」は、反響が非常に大きかったそうです。一部批判的なコメントもありましたが、多くは「面白かった」「会話が増えた」という好意的なものでした。

ここまでは番組が視聴者に問いを投げかけていた訳ですが、子どもたちが自ら学びたいことを学んでほしい、という思いから次の番組「カガクノミカタ」(2015年から現在まで放送)が生まれました。この番組では、ふしぎだと思うことを育む、わからないこと自体を面白いと思えるようにする、ということを目指しています。

ただ、竹内さん自身も、分からないことも面白いと思ってもらえるような見せ方にはまだまだ工夫が必要だと感じているそうです。また、「分からない」ということに対して子どもたちが罪の意識を感じないようにするには、周りの大人たち、特に学校の先生たちの協力が必要不可欠であるということもおっしゃっていました。

会場からは、子どもたちの教育に関する質問が多く飛び出していました。「今までの学校の教科書や、体系的に教えるという従来の教育方法は良くなかったということなのか」という質問に対しては、「それ自体が悪いのではなく、系統学習を否定するわけではない。ただ、その学び方だけでは足りない部分もあるので、そこを補完できるような番組や番組を使った活動を提案していきたい」というお話をされていました。これからの時代、知識を簡単に得ることのできる世の中になっていく中で、考える力を身に着けることが重要になるという理解が、教育の現場でも必要であることをおっしゃっていたことが印象的でした。

文:安井 裕人(生命機能研究科 博士前期課程)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員



【案内文】
2019年6月18日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズにおいて、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」の第1回を開催します。
今回のゲストは、NHKエデュケーショナルの竹内慎一さんです。

「大科学実験」「考えるカラス~科学の考え方~」「カガクノミカタ」など、科学の営みや科学の考え方などをかっこよく、そして、楽しく伝えることのできる番組を制作してきた竹内さん。
番組制作時に大切にしていることや、テレビというメディアだからできる科学技術と社会のつなぎ方についてお伺いしたいと思います。




■第50回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)#1
○ゲスト:竹内 慎一 氏(NHKエデュケーショナル 教育部 プロデューサー)
○日時:2019年6月18日(火)14:40~16:10(開場 14:30)
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
 ステューデント・コモンズ2階 セミナー室A

○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
この「ウェブフォーム」への入力をお願いします。
または、
件名を「6月18日参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター


概要
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論します。

大阪大学COデザインセンターが開講する2019年度夏学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

プログラム
1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「科学の何を伝える?どう伝える?」
3)質疑応答&ディスカッション

ゲストプロフィール
大学では動物生態学を専攻。大学院にも進んだが、研究を進めることへの不安と、科学の魅力を一般の方々に広くわかりやすく伝える仕事ができないかと考え始めたこともあり、放送局に就職した。
近年は「大科学実験」「考えるカラス~科学の考え方~」「カガクノミカタ」などの科学教育番組や、不登校・多様な学びについて扱った番組を中心に制作。
主な受賞歴:英ワイルドスクリーンパンダ賞(2002年)、日本賞外務大臣賞(2001年)、科学技術映像祭優秀賞(2014年)、米国際フィルムビデオ祭ゴールドカメラ賞(2016年)、国際エミー賞最終ノミネート(2015年)など。

本シリーズについて
「つなぐ人たちの働き方 2019年度夏」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 6月18日(火) NHKエデュケーショナル プロデューサー・竹内慎一さん
#2 6月25日(火) 株式会社毎日放送 報道局 記者・奥西亮太さん
#3 7月2日(火) 京都大学 学術研究支援室 URA・白井哲哉さん
#4 7月9日(火) 大阪府健康医療部 食の安全推進課・西岡麻須美さん
#5 7月16日(火) 科学コミュニケーター(フリーランス)・本田隆行さん


Flyer_190618-0716(PDF: 381KB)