つなぐ人たちの働き方(2019年度夏) #2 毎日放送 記者・奥西亮太さん



2019年6月25日(火)に、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」第2回が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。会場には学内・学外から合わせて24人の参加者が集いました。

この日は、毎日放送 記者の奥西亮太さんをお招きしました。奥西さんは大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻の修了生です。と同時に、副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策(STiPS)」の一期生でもあります。

まずは、奥西さんには「ローカルメディアで科学を強みにするということ」というタイトルで話題提供をお願いしました。学生時代は神経で働くタンパク質について研究していた奥西さんが、なぜ報道に関わろうと思ったのか、番組をつくる上で何を大切にしているのか、ニュースが社会に届くまでにはどのような工程があるのか、など様々なお話をしていただきました。

今回のセミナーの様子を以下の流れで報告します。
1.奥西さんによる話題提供の概要
2.質疑応答の様子

1.奥西さんによる話題提供の概要
・科学報道を志した動機
理学研究科に進学した当時は、研究者になろうという気持ちが強かったそうです。
しかし、2011年3月に発生した東日本大震災後に、世の中で起こっていたことを垣間見る中で、当時、次のように思ったそうです。
「コミュニケーションがうまくいっていないことが多い。世の中の人がみな『科学』という文法を理解していたら、いがみ合わなくなるのではないか。『科学』という文法を知っている自分を活かすことのできる仕事があるのではないか」
このような経緯もあって、科学報道という選択肢を考えるようになり、そして、毎日放送に就職することになったそうです。

・ニュース番組ができるまで
ニュース番組で取り扱う内容は主に次の3つに分けられます。それぞれ放送される時間にも差があります。
1)普通の話題(1~1.5分)
2)注目されている話題(2~3分)
3)特集(7.5~10分)

また、ニュースが視聴者に届くまでの流れとしては次のようなものが一般的だそうです。まず外勤の記者が取材をし、原稿を執筆する→内勤の記者が加筆・編集をする→デスクがチェックする→放送される

扱う話題としては、事件や事故だけでなく、季節ネタや街ネタ、プレスリリースや記者会見で発表されたもの、独自に調査を行なって明らかになったもの(調査報道)など多岐にわたります。中でも、「価値のあるニュース」として優先的に放送されるものは、国民の「生命」と「財産」に関わるものだそうです。地震や台風など災害時の報道が代表的な例です。

・大切なのは「画になるか」
奥西さんが特に強調されていたのは、「“ニュースの大きさ”はもちろん大切ですが、大切なのは“画になるか”です」ということでした。特にテレビで放送されるものなので、目で見て、耳で聞いて伝わるかどうかということを意識されているそうです。

医療に関するトピックは、患者、医者、病室など、“画”になるものが多く、扱いやすい一方で、奥西さん自身の専門でもあった分子生物学など目に見えないものを扱うことはなかなか難しいのだそうです。例えば、NHKが放送しているNHKスペシャルのような番組であれば、CGをつかったりスタジオのセットを工夫したりすることで「見えないもの」を扱うこともできる訳ですが、ローカルメディアができることやすべきことはまた別です。同じ放送局であっても、異なる体制で番組作りに臨んでいるというお話も聞くことが出来ました。

・テレビで「科学を報道する」ということ
精通していないと中々分かってもらうことが難しい「科学」ですが、どのように伝えるか、専門用語をどこまで提示するか、といった葛藤を日々感じながらお仕事をされているそうです。

お話の最後には、科学報道に対して奥西さんが日々考えていらっしゃる多様な観点(誰のための報道か、「科学的である」ことは人を幸せにするか、など)を提示していただきました。



2.質疑応答の様子
後半は参加者からの質問にお答えいただきました。その一部をご紹介します。

Q.奥西さん自身が報道を通して社会に影響を与えたと思う瞬間は?
A.スタジオで科学技術に関する解説をしたとき。責任を感じるし、自分の言葉で説明したことが直接視聴者に届く。また、最近では、すい臓がんの新しい治療法を開発するために必要な費用をクラウドファンディングで募るという試みを紹介した。この時は、放送後に資金が多く集まったそうで、関係者にも喜んでもらえて嬉しかった。

Q. ネタが尽きることは?
A. しょっちゅう尽きる(笑)。季節の花や行事などの季節ネタなど、放送する日が限定されないニュースを用意しておく。

Q. 「伝わる」ようにするあまり、事実からはかけ離れた情報を伝えてしまうということはあるのか?
A.嘘がマイナスで事実がプラスであるような軸があるとして、限りなく0(ゼロ)に近づくことはあっても絶対にその境界は超えない。嘘は発信しないように細心の注意を払っている。

Q. 「伝えたいこと」が「実際に伝わること」と異なることは?また、その理由、それによって生じる問題は?
A.例えば、科学的な根拠がある訳ではないのに定められている基準があり、あたかもそれが絶対だと思われていることによって起こるミスコミュニケーションなどは世の中に多々ある。「正しさ」とは科学的・倫理的・法的の3つで構成れていると考えていて、理屈では通じない部分もある。その折り合いをつけることは大切だが難しい。
テレビが伝えていることは2次情報であって、実際に起こっていることのどこをどう切り取るかはメディア次第・その人次第というところはある。複数のメディアを見比べて判断することを心がけるなど、情報の目利きができる人が世の中に増えるということも大切。

最後に、このセミナーの司会進行でもあり、学生時代の奥西さんを知っている八木絵香准教授からはこんな質問が。「奥西さんは以前は、どちらかといえば、「世の中はもっと科学的であるべきだ!」というような学生だった訳ですが、今振り返ってみていかがですか」。この質問に対して奥西さんが、「仕事を通じて、いろいろな人と出会って話す中で、多様なものの見方がある、「科学」はあくまでその1つの見方、ということが理解できるようになった。」というコメントをされていたのが印象的でした。


文:早見 直樹(基礎工学研究科 博士前期課程)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員




【案内文】
2019年6月25日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズにおいて、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」の第2回を開催します。
今回のゲストは、毎日放送 記者の奥西亮太さんです。

奥西さんは、大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻の修了生です。それと同時に奥西さんは、副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策」の一期生でもあります。
今回は、ニュースの中で科学を伝えるとはどういうことか、学生時代に学んだことがどのように活きているのかなどを、奥西さんからお伺いします。




■第51回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2019年度夏) #2
○ゲスト:奥西 亮太 氏(株式会社毎日放送 報道局 報道部 記者)
○日時:2019年6月25日(火)14:40~16:10(開場 14:30)
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
 ステューデント・コモンズ2階 セミナー室A

○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
この「ウェブフォーム」への入力をお願いします。
または、
件名を「6月25日参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター


概要
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論します。

大阪大学COデザインセンターが開講する2019年度夏学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

プログラム
1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「ローカルメディアで科学を強みにするということ」
3)質疑応答&ディスカッション

ゲストプロフィール
学生時代は神経で働くタンパク質について研究する傍ら、副専攻プログラム(STiPS)で科学技術と社会のつながりについて考える。
その中でも科学報道に興味を持ち、毎日放送入社。2年間のテレビ営業局勤務を経て2016年より現職。
本社や京都支局で「VOICE」「ちちんぷいぷい」「ミント!」の各番組で事件・事故など日々のニュースを扱う傍ら、科学技術・医療分野を取材している。



本シリーズについて
「つなぐ人たちの働き方(2019年度夏)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 6月18日(火) NHKエデュケーショナル プロデューサー・竹内慎一さん
#2 6月25日(火) 株式会社毎日放送 報道局 記者・奥西亮太さん
#3 7月2日(火) 京都大学 学術研究支援室 URA・白井哲哉さん
#4 7月9日(火) 大阪府健康医療部 食の安全推進課・西岡麻須美さん
#5 7月16日(火) 科学コミュニケーター(フリーランス)・本田隆行さん


Flyer_190618-0716(PDF: 381KB)