つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)#3 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門・三成寿作さん

科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」第3回を、2021年7月6日(火)に実施しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーを活用し、オンライン形式で開催したこの回には、大阪大学の学生を中心に29人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。



第3回のゲストは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門に所属されている三成寿作さんでした。三成さんは北九州市立大学大学院国際環境工学研究科を修了され、大阪大学大学院医学系研究科などを経て、現在はCiRAでお仕事をされているのですが、その間に日本医療研究開発機構(AMED)への出向も経験されています。現在はiPS細胞研究やゲノム研究といった先端生命科学領域の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)についての研究に従事されています。

三成さんのお話はスティーブ・ジョブズの有名なスピーチに出てくる「Stay hungry, Stay foolish」という言葉を引用するところから始まりました。中でも「Stay foolish」は「あえてリスクをとる、あえて一見効率の悪い道を選ぶ」ことも含まれるのではないかと考えておられ、影響を受けている言葉だそうです。お話の中でも、何度か「不安定さを楽しむ」「賭け」という言葉が登場しました。このようなキーワードを元に三成さんの人生における選択の仕方や、点と点が繋がった経緯などを振り返りながらお話しいただきました。

三成さんはご自身の人生の選択を「行き当たりばったり」とも表現されていました。そして、「何が専門かと問われると難しいが、課題への対応に向けて色んな人と仕事がしたいというのが自身の立ち位置」ともおっしゃっていました。博士号をとられた後は、「科学と社会の間で仕事をしたい」と考え、当時、京都大学人文科学研究所にあった加藤和人研究室のメンバーとなって新学術領域研究「ゲノム支援」ゲノムELSIユニットの立ち上げに携わられました。科学技術だけでなく、「生命科学技術の発展と社会との間をどう調整するか、それを政策としてどう動かし、その際にどんな価値判断をしていかないといけないか」に興味を持たれていたそうです。

これら三成さんの人生における選択(賭け)や研究の方向性は、学生の頃から読んできた本の影響を受けていると述べられました。特に建築家である安藤忠雄さんの影響は大きいそうです。公共建築をつくるにあたり、その場の歴史や、デザインすることの意義を考えなければなりません。この「そこにあるべきものはなにか」を考えることは、三成さんの現在の研究活動を行う上で大切にしていることだそうです。自分の興味関心に沿った内容の研究をするというよりも、「何が求められているか」を重視したい、とおっしゃっていました。何が求められているかを明確にするためには、専門領域を横断した見方が求められます。「そういった意味では「つなぐ」ことができているのかもしれない」とお話しされました。

三成さんがここまで取り組んでこられたゲノム研究のELSIについてもご紹介いただきました。研究の対象領域全体を「氷山」に例え、水面より上の見えている部分がゲノム研究や再生医療にあたるとすると、水面下には、より根本的な「科学技術と社会」を考えるための数多くの論点が存在しているという見方を提示されました。三成さんは「ゲノムの解読や編集といった科学技術と、その倫理、そして、社会に関する広くて深い議論をしたい」とお話しされました。ゲノム研究と社会に関する問題を個々にわけていくと研究の切り口は膨大な数(例えば、同意のとり方、規制・ガイドラインのあり方、商業化の是非等)になります。三成さんは、現在議論されている国の政策という観点から俯瞰的・統合的に何が重要かを捉え直す必要があると考え、海外の研究者とともに論文を執筆もされたそうです(その時の論文はこちら)。


他にも、ゲノム研究を規制するための指針の改正についても紹介いただきました。「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(今回、既存の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」とが統合された指針)が2021年3月に発表されました。三成さんは、今回の指針改正を検討するための会議のメンバーとして、2年間ほど議論をされていたそうです。このような実務的な仕事においても、研究においても、「自分のフレームワークをどのように広げるか、または広げないか、そのバランス感覚が大切」と述べられていました。

最後に、AMEDでの経験についてもお話もいただきました。在籍されていた2015年当時、各省や協議会との調整業務を担当されていました。元々、プログラムオフィサー(PO)という仕事に関心があったこと、また、政策ができていく現場を学びたかったということもあり、AMEDへ出向を決めたそうです。日本の研究の発展や不意に生じるミスコミュニケーションの回避・解消に努めたいともおっしゃっていました。成果が必ずしも形に残らずとも、成果は「自身の経験や表現の中に溶け込んでいく」というお話が印象的でした。


文:安富 祐人(人間科学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」の第3回を2021年7月6日(火)に開催します。



今シーズンは、特に、科学技術の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する取り組みに関わっていらっしゃる方々をお招きしています。

今回のゲストは、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の三成寿作さんです。
三成さんは、CiRA上廣倫理研究部門で、どのようなELSI研究をされているのでしょうか。以前、出向もされていた国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ではどのようにELSIと関わっていらっしゃったのでしょうか。
ライフサイエンスの研究現場に近い視点から、研究や実践を俯瞰する行政の視点まで、多様な立場を経験された三成さんからELSIへの関わり方についてお聞きします。


■第82回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)#3
○ゲスト:三成 寿作 氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門 特定准教授)
○日時:2021年7月6日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○参加費:無料

○申込方法:以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.office.com/r/HSSURPYrut)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「異なる専門領域をつなぐ仕事」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール
三成 寿作 氏(京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門 特定准教授)
北九州市立大学大学院国際環境工学研究科を修了(博士(工学))。iPS細胞研究やゲノム研究といった先端生命科学領域の倫理的・法的・政策的側面についての研究に従事。オックスフォード大学への短期派遣(2014年)や、日本医療研究開発機構(AMED)への出向(2015年)等の経験も。



○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度夏学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)


本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。


「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」は以下のようなスケジュールで実施します。
#1 6月22日(火)日本科学未来館/科学ライター・詫摩雅子さん
 http://stips.jp/20210622/
#2 6月29日(火)株式会社メルカリ R4D・藤本翔一さん
 http://stips.jp/20210629/
#3 7月6日(火)京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門・三成寿作さん
 http://stips.jp/20210706/
#4 7月13日(火)JST 社会技術研究開発センター(RISTEX)・濱田志穂さん
 http://stips.jp/20210713/
#5 7月20日(火)株式会社電通 ソリューション・デザイン局・朱喜哲さん
 http://stips.jp/20210720/


フライヤー(PDF:643KB)