つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)#4 JST 社会技術研究開発センター(RISTEX)・濱田志穂さん

科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」第4回を、2021年7月13日(火)に実施しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーを活用し、オンライン形式で開催したこの回には、大阪大学の学生を中心に28人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。




第4回のゲストはJST 社会技術研究開発センター(RISTEX)の濱⽥志穂さんです。濱田さんには「モノ言う黒衣として「つなぐ」ファンディングエージェンシーの仕事」のタイトルにてお話を伺いました。

ファンディングエージェンシーとは、公募によって優れた研究開発課題や研究者を選定し、研究資金を配分する機関のことです。JSTは公的機関として、国の政策に沿って研究開発事業を企画立案し、税金を原資とした研究開発費を大学や企業などに配分を行っています。濱田さんはその中でもファンディングプログラムの企画設計や推進を担当され、国と研究機関や専門家、企業など、様々な人そして社会をつなぐ仕事に従事されています。濱田さんは今回、話したいことの軸として1)公的機関としてのファンディングエージェンシーの仕事について、2)現場はさまざまな人のごった煮であること、の2つを挙げていました。

濱田さんのお話は、自己紹介から始まりました。元々環境問題に興味を持っていたこと、大学受験当時に文理融合科学や環境科学などを扱う学部が設置されつつあったことなどが進路選択につながったそうです。環境問題は文・理双方の知識が要求されますが、当時文系で環境学を学ぶことができる唯一の大学だったという理由で長崎大学に進学されました。そこで環境政策論を、実践的に現場に赴くスタイルで学ばれました。例えば、諫早湾干拓の問題やカネミ油症という公害の問題などの現場に足を運んだり、研究者だけではなくて自治体や企業、NGOやNPOなどの多様なステークホルダーと対話をしたりするという研究スタイルだったそうです。

修士課程、博士課程と進学し、リサーチアシスタントやポストドクターとして働く中で、競争的資金の獲得の実際やその原資たる国のお金の配分のされ方に興味を持ったそうです。また、大学の研究開発の現場と行政やファンディングエージェンシーの人との間で重視するポイントが何か違う、という感覚を抱いたことも、後にJSTに就職をするという選択につながったのだそうです。そうした背景でJSTにまず2年の任期付きで採用され、のちに正職員として採用されることになりました。

次にJSTについて、そして、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)についての説明がありました。JSTは文部科学省の所管で、国の政策に則って研究開発の推進を担う組織であり、いわば国と研究者をつなぐ中間組織の位置づけだそうです。濱田さんが所属されるRISTEXは、1999年のブダペスト宣言を受け、同宣言で謳われた「社会における・社会のための科学」を日本で具現化するための組織として設立されました。JSTの中ではより社会に近い立ち位置でファンディングプログラムの企画設設計に関わられているそうです。

JSTのファンディング事業は、国の目標や政策を受けて戦略的に研究開発を推進するミッション志向でお金を配分するという方法で行われています。具体的には、ある目標達成のためにまず「プログラム」が立てられ、その運営の下で複数の「研究開発プロジェクト」が募集・選考されるという仕組みです。採択されたプロジェクトは大学や企業、NPOや行政など、研究者や行政・民間が協働で関わります。濱田さんはそのマネジメントに従事されていますが、プロジェクトは多ければ30~40程度が同時に進行するそうで、会議や現地視察等の形で現場に携わり、多ければ500人程度の人と関わり、モノ言うコミュニケーション、すなわち「つなぐ」ことを行っているそうです。

そうした一例として、2020年度に発足したプログラムである「RInCA(科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム)」を紹介いただきました。これは今後の科学技術やイノベーションと人・社会の関係性を考え、先々の課題を発見・予見しながらELSIやRRI(責任ある研究・イノベーション)に取り組みつつ、多くの選択肢を生み出す機動力となる実践的な協業モデルを開発するべく、打ち出されたプログラムです。科学技術と社会の関係深化や相互作用の重要性が高まっているということを背景に設置されました。新興科学技術のELSI/RRIに取り組む基盤を強化していくために、具体的なモデルケースの提示や、国内外への発信・蓄積、人材育成が目指されているそうです。

RInCAもRISTEXの他のプログラム同様、現場やステークホルダーと連携・協働で取り組むことを重視しており、プログラムアドバイザーにも社会心理学者や法哲学者、ベンチャー投資に詳しい企業人など多様な専門家が含まれています。さらにRInCAの特色として、他の研究開発事業やプログラムとの連携・接続を歓迎する、幅広い分野との出会い(「お見合い」)を推進し協力者を募る、「生命や人・社会の根源的価値」について言説化し国外にも発信して国際的な認知度を高めるなど、時にモノを言いつつも、一層の「つなぐ」仕事に取り組まれているそうです。また、プログラムの成果を届ける先も企業や投資家、研究者や市民、そして国の内外など多様であり、「きちんとつなぐ」ことがプログラムを運営する責任とおっしゃっていました。

セミナー実施前に濱田さんにお送りしていた受講生からの質問にもお答えいただきました。「科学技術の専門性を持っていない立場として、第一線で活躍している人たちにどのように接するのか」という質問に対しては、「専門外のことも最低限は勉強しつつも、素人感覚を大切に、取り繕わないで意見をぶつけること」と答えてくださいました。人文系出身者の強みは「なんとなく全体を分かる、俯瞰的に捉えることができる」ことかもしれない、ともおっしゃっていました。また、「多くの先端技術・研究を覗きたいと思うこと、そして多様な人と話すのが苦痛でなく、研究開発の裏方に徹することができ、そこに喜びを感じられるか」ということも、つなぐ人材の素養の1つではないか、とのお話でした。

多くの分野の専門家が集まると、同じ言葉を使っていても視点や考え方が異なる場合があります。多様な分野を「つなぐ」側には各専門分野の言葉の理解に始まり、分野毎の差異の理解も不可欠だそうです。それだけではなく、議論や意思決定の過程を可視化して、残していくことが大切だそうです。これは多くの人が参画する中での意思決定プロセスとしても、税金を原資としているJSTが説明責任を果たす上でも大切というお話でした。

他にも具体的な「つなぐ」ケースや「つなぐ」場面での困難など、様々な質問に対し、ご経験に基づいた丁寧な返答をいただき、つなぐ側に必要な多くのヒントを得ることができました。


文:阿部 真幸(医学系研究科 博士後期課程3年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」の第4回を2021年7月13日(火)に開催します。



今シーズンは、特に、科学技術の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する取り組みに関わっていらっしゃる方々をお招きしています。

今回のゲストは、JST 社会技術研究開発センター(RISTEX)の濱田志穂さんです。
濱田さんは、科学技術振興機構(JST)でファンディングプログラムの企画設計や推進を担当されてきました。現在は、社会技術研究開発センター(RISTEX)にて、2020年度にスタートした「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム(Responsible Innovation with Conscience and Agility)」(通称、RInCAプログラム)を担当されています。
このプログラムについても紹介していただきつつ、ファンディングエージェンシーの「つなぐ」役割や、濱田さんご自身の興味関心についてもお伺いしたいと思っています。


■第83回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)#4
○ゲスト:濱田 志穂 氏(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)企画運営室 主査)
○日時:2021年7月13日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○参加費:無料

○申込方法:以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.gle/h9MheAEXMVLSNaUJ7)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「モノ言う黒衣として「つなぐ」ファンディングエージェンシーの仕事」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール
濱田 志穂 氏(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)企画運営室 主査)
名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程満期退学。専門は環境政策論、社会的合意形成。上智大学大学院地球環境学研究科特任研究員などを経て、2014年に入構。現職では、科学技術イノベーション、トランスディシプリナリー研究、ELSI/RRI研究など、「社会の中の科学・社会のための科学」を実践するファンディングプログラムの企画設計・推進を担当している。



○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度夏学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター

本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。


「つなぐ人たちの働き方(2021年度夏)」は以下のようなスケジュールで実施します。
#1 6月22日(火)日本科学未来館/科学ライター・詫摩雅子さん
 http://stips.jp/20210622/
#2 6月29日(火)株式会社メルカリ R4D・藤本翔一さん
 http://stips.jp/20210629/
#3 7月6日(火)京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門・三成寿作さん
 http://stips.jp/20210706/
#4 7月13日(火)JST 社会技術研究開発センター(RISTEX)・濱田志穂さん
 http://stips.jp/20210713/
#5 7月20日(火)株式会社電通 ソリューション・デザイン局・朱喜哲さん
 http://stips.jp/20210720/


フライヤー(PDF:643KB)