【国際会議参加報告】15th International Public Communication of Science and Technology Conference(PCST 2018)

 2018年4月4日〜6日に、ニュージーランド・オタゴ大学にて開催された国際会議「15th International Public Communication of Science and Technology Conference (PCST 2018) 」に、工藤充特任講師が参加しました。

(写真:メイン会場のSt David Lecture Theatre Complex, University of Otago, Dunedin, New Zealand)
以下の文章は、工藤充特任講師による、会議への参加レポートです。

 PCSTは、科学コミュニケーションの研究や実践を行うメンバーから成る集まりで、ヨーロッパを中心に、アメリカ・アジア・アフリカ等を含む世界の様々な国々からの人々が参加しています。2年に1度開催されるこの国際大会では、科学コミュニケーションの最新の研究成果の発表や、先進的な実践事例の紹介、教育カリキュラムの共有など、盛りだくさんの内容のプログラムが組まれます。今回も、45を超える国から400以上の参加者が集まり、大会開催期間の3日間、朝から夕方まで隙間なくセッションが組まれていました。

 STiPSから参加した工藤は2件の発表を行いました。1つ目は、EUの「Horizon 2020」という研究助成の下で実施されている、サイエンスショップについてのプロジェクト「Ingenious Science shops to promote Participatory Innovation, Research and Ethics in Science (InSPIRES)」の主催するラウンドテーブルです。InSPIRESには、STiPSからは平川秀幸教授と工藤がアドバイザリーボードメンバーとして参加しています。InSPIRESのメンバーとは事前にメールを通じて内容について議論し、また大会会場でも空き時間を使って事前打ち合わせを行いました。当日は、15人程度の方に参加を頂き、「Science communication the other way around: how to get scientists to understand you」というテーマについて話し合いました。科学者が科学コミュニケーションに関わることに対して前向きになれない場合、そこにはどのような障壁があるのか。それに対してこれまでにどのような取り組みがなされたのか。また、今後はさらにどのような取り組みが必要なのか。そんな問いを中心に、75分のセッションの中で、参加者それぞれの経験や現場からの声を皆で共有し、次に向けて打つべき手について議論しました。
 もう1つの発表は、STiPSの教育プログラムについての口頭研究発表です。こちらは、これまでにSTiPSで学び、卒業していった元STiPS履修生とのインタビューやワークショップをもとに、STiPSで提供する科学コミュニケーションの教育コンテンツの成果や改善点について議論しました。これまでにもスペインやオーストラリアの科学コミュニケーションに関する学会でSTiPS教育プログラムについての発表を行ってきていますが、その度に日本とはまた異なる高等教育システムを持つ国ならではの長所・短所について知ることができ、大変勉強になります。今回も、新たにポルトガルやシンガポール、中国の研究者らと意見交換ができ、面白い気づきが得られました。これらの知見をSTiPSに持ち帰り、これからのSTiPSの教育プログラムの改善に活かしていきたいと思います。

 今回の大会の全体を通じての感想ですが、PCSTとして15回目になる今大会の全体・個別セッションの中で何度も「科学コミュニケーションとは何か」という問いが繰り返されたことが示すよう、この科学コミュニケーションと呼ばれる分野・領域が非常に多様で間口が広く、常に変わり続けているものであることを改めて感じさせられました。科学コミュニケーションに参画する人々の間で目的や価値観、問題意識をしっかりと共有することが難しい、という課題が、様々なセッションの中で顕在化していたように思います。それと同時に、参加国や参加者のジェンダーという点ではまだまだ多様性が高いとは言えない、という問題提起もなされていました。一参加者としての立場からは、科学コミュニケーションに対する立場や考え方を異にするたくさんの人たちと出会い議論を交わする非常に刺激的な場としてこの大会が機能していたと思いますが、PCSTという1つの看板の下に集まることで議論されにくくなる問題も同時に存在することも常に頭に置いておかなければいけないと感じました。