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成果物

小山田耕二・教授



可視化とは
可視化技術と「政策のための科学」について
今後の教育プログラムと課題について



可視化とは


私は、可視化技術の研究を長らくやってきました。可視化技術というのはデータをわかりやすく画像化する、ということなのですが、「わかりやすい」というのは、基本的に脳の中にパターンとして保持されたものにうまくマッチングさせていくということです。「わかりやすく」というと簡単なように聞こえますが、実際かなり奥深くて難しい。「わかりやすさ」ということをどのように確認していくかということで、最近は脳科学のいろいろな知見を得て、それをさらに発展させていくというようなことも視野に入れています。それが私の研究のバックグラウンドですね。

ソーシャルメディア、そういったものを見えるようにすることを可視化ということもあるでしょう。さらに実際の行政ということになりますと、地図上にマッピングされた何らかのデータをもとに話し合っていくということもある。その場合、使われるデータというのはサイエンティフィックな可視化でよく使われているデータと同じですから、そういったものを使うということでは共通の基盤もありますね。政策のための科学における可視化といっても、これまで私が携わったものと本質的にはあまり変わらないものだと思っています。

基本的には可視化というのは視覚を通じて人間に気づきを起こさせる。その次に、気づきを得た人間が、同じくその画像を見た人と対話を深めていって、そして自分自身で考えますと、これは思考というものを深めていく、そういった役割があると思います。その次のステップとしては、適切な行動に移ること。人間の脳で言いますと、運動野のところに刺激が回っていって、次に適切な行動をとって、また新たなものを見て、ぐるっとスパイラルで回っていって、自分のところに残る知識ですね、そういったものが高まっていく。そういったものは自然科学・社会科学・人文科学に共通することだと思っていますので、それらも含めて可視化の役立つエリアを広げていきたいと思っています。

社会的合意を得るために活用しなければならない大量のデータが現在すでに出てきていて、これらを無視するということはできないでしょう。そのための手段はいくつかあるのかもしれませんが、とにかく人間の脳の中に入れていかないといけないわけですね。それは味覚でも嗅覚でも何でもいいのですが、やはり視覚を通じて入れていくのが一番効率がいいのではないかと思います。



可視化技術と「政策のための科学」について


科学技術イノベーション政策のための科学ということは、社会が直面する課題というものを抽出して、その中で科学技術がカバーできるもの、それから社会システムの変革が必要なもの、と絞り込んでいって、それを政策メニューの方に落とし込み、社会に提供するものだと思っています。その社会的な課題を実際に抽出する上で、可視化技術というのは大変重要になってくるものだと思っています。社会というものに関してどう直面するかということですが、社会に直接インタビューすることもできませんし、実際にヒアリングすることもできません。現在だったらソーシャルメディアというもので社会の声というものを聞くことができるのですけれども、このデータというものが大変多くて、一日あたりだいたい9千万くらいのツイートが流れていたり、何十億ものメールが、毎日世の中に流れています。それらを一つ一つ確認することはできないわけです。そこで、可視化する、わかりやすく絵にする、こういったことがひとつの役立つ技術になるだろうと思っています。そういう点で、可視化技術は政策のための科学に大変貢献するものだと思っています。

例えば、NSF(アメリカ国立科学財団、National Science Foundation)のジュリア・レーン(Julia Lane)さんという方は、投資に対してどの程度科学技術イノベーションが起こっているか、実際に投資したお金がどのように有効に使われているのかということを、可視化技術を使って確認するということを行っています。可視化は、このプロジェクトで期待される技術だと考えています。

「科学技術イノベーション政策のための科学」と名前には、「科学」が二つ入っていますが、科学技術というコンテクストでの「科学」と、政策のための「科学」というところは若干ニュアンスが違っていると思います。科学技術の科学というのは、自然科学に関係する言葉ですが、最後の科学というのは科学的手法ということだと思います。この科学的手法というのは簡単に言ってしまえば、基本的に問題を設定して、それに対して仮説を設けて、それを検証して、エビデンスでもって検証して、有効性を確認するという流れだというふうに言われていますが、そういった一連の流れを、我が国の教育機関では、きちんと教えてこなかった。まずそこの充実を図る政策の科学ということも、考えていく必要があると思っています。



今後の教育プログラムと課題について


私たちは京都大学の中で、政策のための科学に参加する前から、そういったことを試験的に行ってきました。一年生に自分の気に入った課題を見つけてもらって、その課題に対して仮説を設けて、それを立証するためのエビデンスを探してきて、その有効性を確認する、そういった演習を行っています。それをわかりやすく説明するという必要もありますので、本学では時計台ホールというけっこう大きなホールがあるのですが、そこで500名相手に英語でプレゼンテーションするという機会を設けています。こういったことを通して、科学的手法というものを大学の教養レベルでうまく体得できるような授業を行っています。

大学院でも、科学的手法という点では同じですが、学生のみなさんにはとにかくフィールドへ出かけていって、まず社会の声を聞いてほしい。実際出かけていくことも大事ですが、Webや可視化技術を通じて社会の声を聞く、そういったこともできるので、学部生に比べてより広い範囲で社会の声を聞くということをまず行っていただきたい。

具体的に私が今、始めようとしているのが、ポートフォリオの利用です。ポートフォリオを利用して自分の学びを振り返って、そして自分の次なるステップというものに、学びがどう役立っていくかということをやはり見せてあげなければ、学生にとって何も残らないのではないでしょうか。今回は教育という観点でのプロジェクトですから、ポートフォリオの活用を取り入れていきたいと思っています。

可視化技術を使った市民との対話の促進は、チャレンジングな研究課題だと思っています。論文になるということはそれをきちっと計る指標が確定されていないといけないと思うのですが、社会的実験に通ずるところがありますので、それを実際に見ていこうとするとものすごく長い年月がかかる。より小さなスケールで計る方法は何なのかというところが重要です。私はいまだ仮説すら思いついていませんので、このプロジェクトで模索していかないといけないと思います。