原子力に関するオープンフォーラム・実践インタビュー

原子力の議論とそのための場所づくり

私自身、ファシリテーターとして原子力の専門家と専門知識をもたない普通の人々、あるいは異なる意見をもつ専門家同士が対話する場をつくることにこの10年ほどの間、取り組んできました。もちろん東日本大震災以前のことなので今と状況は異なりますが、推進・反対いずれもの両方の意見をフェアに聴ける場はそれほど多くはなかったと思います。

原子力を使い続けるのか否か、日本のエネルギーをどう選択するのかを決めるためには、専門家のみならず、市民一人ひとりが自分の意見を吟味し、選択していく必要があります。そこには唯一の「正解」はありません。だからこそ、自ら考える際の1つの判断材料として、意見の異なる専門家同士の対話の場に触れることは重要です。そして、そのとき大切なことは、対話の場が「公平に運営されること」だと思ったのです。

そこで当時、反対派の専門家である京都大学の小出裕章さんに相談しました。彼は「公正に運営されるのであれば、意味のあることです。僕はどこでも参加しますよ」と言ってくださり、そこから「原子力に関するオープンフォーラム」を開催するための活動が始まりました。


BestではなくBetterを

原子力について議論をするときに、どういうやり方が中立かと問われれば、そこにも1つの正解はないと思います。どういうアジェンダ設定にするか、誰が専門家として登壇するか、誰がどのようなファシリテーションを行うか、その1つひとつについて「中立」に関するさまざまな考え方がある。

ですから私たちは中立な立場に立つための方法として、BestではなくてBetterを目標にすることにしようと考えました。それはつまり、登壇していただいた反対派の小出さんと推進派の杤山修さんの合意ですべてのルールを決めることで、公平性を担保しようとしたのです。

対話のやり方を、主催者の側が決めるのではなくて、そのすべてを両者に確認して、合意の上でルールを取り決めました。ですから準備にはすごく時間がかかりましたね。その甲斐もあって推進派:反対派=6:4の状況の中で、アンケートを取ると、その双方から概ね公平であったという評価が得られました。


東日本大震災をへて変わったこと、変わらないこと

東日本大震災以降、原子力を取り巻く社会の状況は大きく変化しています。以前と似たような枠組みは必要ですが、同じではないはずです。オープンフォーラムでは、超長期にわたる高レベル放射性廃棄物に関する問題を短い期間で決着するのではなく、ゆっくりと時間をかけて議論し、個々人が判断するための材料を提供する、論点を多くの人の間で共有することが前提でした。ある意味において、決断はもう少し先送りにして、まずは丁寧な議論をしましょうというコンセプトだったわけです。

しかし現状では、福島の除染の問題や再稼働問題など、目の前の課題に対する喫緊の決断と、長期的にどのようなエネルギー源を選択するかという、異なる次元の決断をすることが必要です。

前者については、十分な議論よりも、スピード感のある政策決定が求められる部分もあります。そういう状況においては、そもそも原子力の問題の中で、何について、どのような形で、十分な国民的熟議を経ることが可能なのかについて問い直す必要もあると考えています。


● 八木絵香・准教授
大阪大学
コミュニケーションデザイン・センター