STiPS Handai研究会「放送のプロフェッショナルと社会を考える(2021年度)」

2021年11月4日(木)に、「放送のプロフェッショナルと社会を考える(2021年度)」をオンライン形式で開催しました(集中講義「メディアリテラシー」の一環として開催)。27人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。

この日は、3部構成になっていました。NHK大阪拠点放送局から3名のゲストをお迎えしました。

#1 10年目を迎えた「バリバラ」の歴史を振り返る
ゲスト:錦織直人 チーフ・プロデューサー(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 福祉班)

#2 NHKスペシャル「忘れられた戦後補償」、番組にこめた思い
ゲスト:横里征二郎 ディレクター(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 報道番組班)

#3 ドラマで社会問題を表現する:「六畳間のピアノマン」を事例に
ゲスト:野田雄介 エグゼクティブ・ディレクター(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 ドラマ班)
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#1 10年目を迎えた「バリバラ」の歴史を振り返る
錦織直人 チーフ・プロデューサー





NHKに入局してから30年近く経つという錦織さんは、転勤を重ねつつも、福祉の番組を制作する部署に関わる期間が長かったそうです。「幸せにはいろんな形があるよね、ということを発見できるのが、福祉番組をつくる上での醍醐味です」とお話しされていました。

錦織さんが昨年から担当されている番組が「バリバラ みんなのためのバリアフリー・バラエティ」です。「バリバラ」のコンセプトや、制作にあたって大切にしていることなどを説明していただきました。「乗り越えるべきバリアは体や病気ではなく社会にある。であれば、メディアはマジョリティー(社会)の意識をどう変えていけるのか」このような観点から番組をつくっていらっしゃるそうです。

参加していた学生からは、「長年、福祉の番組作りに携わる中で、表現手段や強調するポイントなど、何か変わったところはあるのでしょうか」、「番組を見てもらうために、どのような工夫しているのでしょうか」など様々な質問が寄せられました。

#2 NHKスペシャル「忘れられた戦後補償」、番組にこめた思い
横里征二郎 ディレクター





2020年8月に放送されたNHKスペシャル「忘れられた戦後補償」を例に、番組制作の背景や制作プロセスについてご紹介いただきました。

元々は、スポーツに関わりたい、ヒューマンドキュメンタリーが好きという動機でNHKに就職したという横里さん。入局後は、クローズアップ現代やNHKスペシャルなど報道系の番組制作に数多く関わることになったそうです。その中で、「今の日本がどう成り立ってきたのだろう? 戦後はどういう時代だったのだろう?」と考えるようになり、戦後補償を取り上げた番組の企画にもつながったというお話でした。

最初の企画書を書いたのは、放送の10ヶ月前。プロデューサーからすすめられた1冊の本との出会いがきっかけだったそうです。そこから取材を重ね、企画を練り直し、企画が通ってからは、ロケ、編集、ナレーションの執筆・・・というように、番組制作までのスケジュールや取材、インタビューの様子などについて、時系列に沿って説明していただきました。番組ができるまでの地道な努力や、ときに熱い思いで乗り切ってきた経験を紹介いただきました。

参加の学生たちの「ドキュメンタリーへの出演を承諾してもらうのは難しそうなのですが・・・」という質問には「番組のコンセプトや社会に向けて放送する意味をきちんと伝える、ということを大事にしている。」という回答があり、また、「繊細な話題についてインタビューを行うときに気を付けていることは?」という質問には「番組のために人を利用しない。そして、相手との関係をフェアに保つことを心がけている」と回答されていました。

参加の学生たちのリアルな気持ちや考えを、“先輩”として受け止めながら、現場でのご経験を踏まえて、一つずつ丁寧にお答えいただきました。

#3 ドラマで社会問題を表現する:「六畳間のピアノマン」を事例に
野田雄介 エグゼクティブ・ディレクター





ドラマ制作に30年近く携わってきた野田さん。これまでには連続テレビ小説「マッサン」や「スカーレット」、大河ドラマ「西郷どん」の演出を担当されたそうです。現代のドラマであっても時代劇であっても、「今、そのドラマを放送する意味は?その目的やねらいは?」と問われたら、その問いに明確に答えることができるような企画になっていることが大切、というお話から始まりました。

今回は、2021年2月に放送されたNHK 土曜ドラマ「六畳間のピアノマン」を例に挙げつつ、ドラマで社会問題を表現するとはどういうことか、演出にはどのような工夫をしたのか、ということをお話しいただきました。

企画当初は、「働く意味を考える」ことをテーマに据えたドラマだったものの、コロナ禍でのドラマ制作になったことで、当初のねらいに加えて、「人と人との見えないつながり」にも焦点があたるように企画を練り直したというエピソードが紹介され、そのねらいを強調するために施した具体的な演出の工夫についても紹介がありました。

野田さんの「どの時間帯の、どのようなスタイルの番組であっても、作り手が『ジャーナリストである』という意識を持っている。『今、その番組をつくる意義』を考えて日々制作している」というまとめの言葉が印象的でした。


長丁場のセミナーでしたが、あっという間に時間が経っていました。情報の送り手の意図や葛藤の一端を知ることができた貴重な1日でした。

【案内文】
「放送のプロフェッショナルと社会を考える」は、放送の今と未来、放送の公共性などを考えるセミナーです。

番組制作の第一線で活躍されている方のお話を伺い、参加者も交えて議論します。

放送に興味を持っている方、将来、放送業界に携わりたいと考えている方や、マスコミやジャーナリストなどを希望する方などにお勧めします。

*大阪大学COデザインセンターが開講する2021年度集中講義「メディアリテラシー」(担当教員:久保田テツほか)の一環として開催します。
*#1〜3のうち、希望する回のみの参加も可能です。

■第88回STiPS Handai研究会
○題目:放送のプロフェッショナルと社会を考える(2021年度)
○日時:2021年11月4日(木)#1 13:00〜14:30, #2 14:40〜16:10, #3 16:20〜17:50
○実施形態:オンライン形式
 *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。

○対象:SciREX人材育成拠点で学ぶ学生や関連する教職員、大阪大学の学生
 *大阪大学の全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この研究会開催時間のみ、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○参加費:無料

○各回の詳細:
「放送のプロフェッショナルと社会を考える(2021年度)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 11月4日(木)13:00-14:30
10年目を迎えた「バリバラ」の歴史を振り返る
ゲスト:錦織直人 チーフ・プロデューサー(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 福祉班)

 関連番組「バリバラ みんなのためのバリアフリー・バラエティ」

#2 11月4日(木)14:40-16:10
NHKスペシャル「忘れられた戦後補償」、番組にこめた思い
ゲスト:横里征二郎 ディレクター(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 報道番組班)

 関連番組 NHKスペシャル「忘れられた戦後補償」

#3 11月4日(木)16:20-17:50
ドラマで社会問題を表現する:「六畳間のピアノマン」を事例に
ゲスト:野田雄介 エグゼクティブ・ディレクター(NHK大阪拠点放送局 コンテンツセンター第3部 ドラマ班)

 関連番組「六畳間のピアノマン」


○申込方法:
以下のいずれかの方法で、事前のお申し込みをお願いします(*10/29までにお申し込みをお願いします)。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.office.com/r/cTfyLhafgA)から、必要事項を記入の上、送信をお願いします。

2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。


○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター