市民参加型ワークショップ「ちょっと未来のヒトの移動 〜続 感染症対策に使われる情報技術〜」@オンライン

2021年2月19日(金)に、市民参加型ワークショップ「ちょっと未来のヒトの移動 ~続 感染症対策に使われる情報技術~」をオンラインで開催しました。

STiPSがオンラインで市民参加型ワークショップを開催するのは今回が2回目です。2019年度までに実施してきた市民参加型ワークショップの進め方をベースにして、対面でのワークショップの良さをできるだけ残しつつ、また、オンライン開催のメリットも生かせるように心がけながら企画しました。これまで同様、グループごとの対話の時間と、全体での共有の時間を組み合わせた進行でした。



この日の参加者は16人。平日の夜という時間設定でしたが、多様な年代(20代から60代)の、そして、関西だけではなく東京や岡山などにお住まいの方にもご参加いただきました。

参加者に加えて、グループファシリテータが8人参加し、グループごとの対話の時間に、参加者のみなさんをサポートしました。オンラインでの開催ということで、遠方に住んでいるSTiPS修了生にもお手伝いをしてもらうことができました。1グループあたり、3~5人の参加者とグループファシリテータ2人で対話を進めました。

今回のワークショップは、「健康証明パスポート」構想をとりあげました。感染症対策として社会に導入されようとしている情報技術がいくつも出てきていますが、「健康証明パスポート」もそのうちの1つ。ワクチン接種記録やPCR検査結果をアプリで管理して提示することで、行動制限を緩和することを目指して実装が目指されているものです。

まずは、今回のゲストの1人、工藤郁子さん(大阪大学 社会技術共創研究センター 招へい教員)から、概要を説明していただきました。現状では、国によって新型コロナウイルス感染症への対応が異なるために、出入国の際に様々な不都合が生じているということ、それを解決するために、例えばアプリを開発して各国の最新の出入国時の条件とマッチングできるようにするという動きがあること、新しい仕組みを導入しようとする時には課題も想定されること、などのお話がありました。



こういった「健康証明パスポート」構想について、グループごとに分かれて話し合ってみようというのが、今回のワークショップです。ただ、ここ数ヶ月、長距離の移動から遠ざかってしまっている私たち・・・新型コロナウイルス出現後のの出入国がどのような流れになっているのか、いまいち実感できません。そこで、アイスブレイクも兼ねて、模擬出入国の体験をやってみました。この企画は、初の試みなのでうまくいくかどうか、スタッフ側もドキドキでした。

グループファシリテータの1人が、別のグループに移動(=出国)をしていきます。移動先(=出張先)のグループでは、「長期で住んでいたニューヨークから日本に一時帰国した人」になりきって、体験談を語ります。10分後には、そのグループファシリテータは元のグループに戻ります(=帰国)。そこでまた別の海外出張の体験談を語るというミニコントのような15分でした。グループファシリテータたちの迫真の演技(?)で、臨場感のある体験談になっていたようでした。

この模擬出入国の体験を踏まえつつ、それぞれのグループで「健康証明パスポート」構想に期待すること、不安なことを共有してもらいました。

例えば、このような話題が出ていました。
・接種状況や健康状態など個人情報が疫学的な抑制のために使われるのはよいけれど、使われ方によっては差別に繋がることもあるのだろうか。
・スマホを紛失したらどうなるの?
・「健康証明パスポート」を使うことで、移動した後に隔離されなくなる、隔離期間が短くなるなら便利。
・「健康」を証明しないといけないという価値観の変化に気持ちがまだついていけない。



これら各グループで話し合われた内容を受けて、ゲストの荒金美知子さん(NEC/世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター コラボレーター)からは、ご自身が推進する「健康証明パスポート」の現状について追加の情報提供がありました。「健康証明パスポート」ではどのような情報が扱われるのか、情報が保管される期間はどれぐらいなのか、など、現在想定されていることについて教えていただきました。また、それぞれの国や立場によっても考え方が異なるので調整を図っている段階であるというお話もありました。もう1人のゲストである工藤さんからは、「現在進められている健康証明パスポートの特徴として、政府でも企業でもないNPOのコモンズ・プロジェクト(The Commons Project)が実装を主導していることが挙げられる」という補足もありました。

休憩の後は、グループ対話の後半です。前半は主に個人としての不安や期待について議論をする時間だったので、後半は少し視野を広げます。この世界的な課題を解決すべく社会の中で「健康証明パスポート」の導入を検討する時には、何を大事にしなければならないかという視点で話し合ってみる時間になりました。



グループ対話の後半では、このような話題が出ていました。
・今は「健康を証明しなければ」というような価値観の変化に違和感があるが、この先には異なる恩恵が待っているかもしれない。
・「健康証明パスポート」が使われることで、不利益を被る人が出ないような設計が必要だと思う。
・社会にとって大事なことと、個人の価値観との間のすり合わせが必要になってくる。そのための議論が必要なのではないか。

ゲストのお二人からは、「公衆衛生と個人の自由の尊重はとても大きな問題である」ことや、「差別につながるかもしれないという意見もあったが、そういう違和感を大事にして、周りの人とも対話をしていってほしい」というコメントがありました。

後日、参加者のみなさんからいただいた感想の一部をご紹介します(*実際に届いた文章に編集を加えて掲載しています)。
・自分とはバックグラウンドが全く違う人と話す機会がないので、良い勉強になりました。また、専門的な知識をもった人の意見を聞くことができたのも貴重な機会となりました。
・若い世代の方と接する機会が日常的にあまりないのですが、みなさん自分の考えを明快に言語化できていて、そのことにとても刺激を受けました。
・今日参加をする中で、情報管理に対する信頼性が特に重要である、ということがわかった。
・移動するかしないかを自己決定できることを私は最も重要視したいし、そのために信頼できる情報がきちんと開示され、技術を選択できる未来であればいいなと思いました。

ワークショップの最後には、ゲストの工藤さんから参加者のみなさんに、3つ目の問いが、この日のおみやげとしてプレゼントされました。ここまで「健康証明パスポート」という技術について議論したことを踏まえて、この先、もしかしたら移動しなくなる未来がやってくるのだろうか? それとも、あえて移動するということにどういった価値を見いだすようになるのだろうか?ということを、もう少しだけみなさんの周りの人たちと一緒に考えてみてください。というものでした。ぜひ、ご家族やお友達と、ちょっと未来の社会の話をしてみてください。


【案内文】
2021年2月19日(金)に、市民参加型ワークショップ「ちょっと未来のヒトの移動 〜続 感染症対策に使われる情報技術〜」をオンラインで開催します。

私たちはこれまで、自動運転、再生医療といった科学技術にまつわる課題を考える対話の場をつくってきました。
– これからのくらしにどう影響するのだろう?
– どのように社会を変えていくのだろう?
– 変わらない、もしくは、変えたくないものはなんだろう?
ということをみなさんと考えてみるという場です。

今回のテーマは、「ちょっと未来のヒトの移動」。



オンライン開催
市民参加型ワークショップ「ちょっと未来のヒトの移動 〜続 感染症対策に使われる情報技術〜」


昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大という状況を踏まえ、「感染症対策に使われる情報技術と、わたしたちのくらし」をテーマに、オンラインワークショップを開催しました。
その際、接触確認アプリなど、感染症対策として社会に導入されようとしている情報技術に焦点を絞って、みなさんと話し合いました。

今回は、その第2弾。ワクチン接種記録やPCR検査結果をアプリで管理して提示することで、行動制限を緩和する「健康証明パスポート」構想についてです。

オンラインにはなってしまうけれど、みんなで集って対話を重ねたら、自分だけでは捉えることができなかった視点を得ることができるかもしれません。

ちょっと先の未来を一緒に考えてみませんか。

○日時:2021年2月19日(金)18:30〜21:00(受付開始 18:00)
○実施形態:オンライン開催
*Zoomを利用予定です。
*参加方法の詳細はお申し込みいただいたメールアドレスに後日ご案内いたします。
*スマホやタブレットからでもご参加いただけると思いますが、PCからのご参加をお勧めします。

○プログラム(予定)
18:00- 開場
18:30- ワークショップ開始
    みんなで考えてみる時間
19:30- ゲストからのコメント
20:00- 休憩
20:05- もう一度みんなで考えてみる時間
20:30- まとめ
21:00  ワークショップ終了

・今回お招きしているゲスト
新規技術の社会導入について詳しい 
工藤郁子さん(大阪大学 社会技術共創研究センター 招へい教員)

健康証明パスポート構想を推進する
荒金美知子さん(NEC/世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター コラボレーター)


・進行
八木絵香(大阪大学COデザインセンター/社会技術共創研究センター 教授)

○参加費:無料
○対象:高校生以上であれば、どなたでも。
*1つのPC(もしくはスマホやタブレット)からのご参加はお一人とさせてください。
○定員:20-30人程度
*事前申込み制です。
*応募者多数の場合は、参加者の多様性を考慮して事務局にて参加の可否について判断させていただくことがあります。ご了承ください。

○申込方法:ウェブフォーム(https://forms.gle/AZGju2F2Ri2JkTpo6)よりお申し込みください。
または、ワークショップ事務局宛にメールをお送りください。
*この申し込みフォームに入力していただいた直後に、自動で返信をする設定にはなっていません。
*入力した情報のコピーを、ご自身のメールアドレス宛に送ることはできます。
*誤ったアドレスを入力されると、こちらからの案内が届きません。よく確認をお願いします。
*参加の可否については、登録いただいたメールアドレス宛に事務局より案内をお送りいたします。

○申込の締切(一次):2021年2月3日(水)17:00

○問合わせ先 &申込先
STiPSワークショップ事務局(大阪大学COデザインセンター内)
Email stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター)、公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター
○後援:JST-RISTEX『科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム』「携帯電話関連技術を用いた感染症対策に関する包括的検討」(研究代表者:東京大学 米村滋人)
○協力:大阪大学共創機構 社学共創部門

*このワークショップは、公益財団法人倶進会 科学技術社会論・柿内賢信記念賞(実践賞)「新型コロナウィルス感染症対策アプリに関するリアルタイム・テクノロジーアセスメントの実践と応用(工藤郁子)」、及び、厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の倫理的法的社会的課題(ELSI)に関する研究」の支援のもと開催します。