つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)#4 自然エネルギー財団 上級研究員・相川高信さん
2021年1月12日(火)に、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2020年度夏)」第4回を開催しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーで開催したオンラインセミナーに22人(スタッフや授業の受講生も含む)が参加しました。今回のゲストは自然エネルギー財団の相川高信さんでした。相川さんは京都大学の農学部を卒業後、同大学院農学研究科に進学しました。森林生態学を専攻され、自然科学的なアプローチで研究を進める研究室で修士課程を過ごしました。「農学部は、人の営みとしての農業や林業を扱うということもあって、経済学などの社会科学的な分野も身近にあった。また、自然科学といっても、土・水・微生物・動物・植物など様々な要素が関わっているのが生態学。学際的な研究が普通に行われているような環境に身を置けたことは、今から振り返るととても良かった。」ということをお話されていました。
修士課程修了後は、UFJ総合研究所(2006年以降は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)へ入社し、研究員として、林業や木材産業に関わるコンサルティング業務に関わってきたそうです。学生時代にはあまり学ぶ機会がなかった政策形成に関わる機会が多くなったこと、また、社会科学への好奇心が強くなってきたことなどの理由から、お仕事を続けながら、北海道大学大学院農学研究院で森林政策学を学び、博士号を取得されました。2016年からは、公益財団法人自然エネルギー財団の上級研究員として活動をされています。「自然科学と社会科学、利用と保全、環境と学術、これらの間に身を置く。そして、統合化に挑戦する」という姿勢を大事にされてきたとのことでした。
次に、シンクタンクで働くとは、具体的に何をすることなのか、ということを現場の写真を示しつつ、紹介していただきました。国内外問わず様々な人と話をしたり、国際会議でプレゼンをしたり。実際に林業の現場で作業する方や役場の方に加え、時には政治家と話をする機会もあるそうです。相川さんは「現場を訪れることを重視したい」とお話されていました。また、森林を具体的な数字で表し、議論し、政策に反映させることを心掛けているとも述べられていました。
今回のセミナーの参加者には、事前に、「社会変革の起こし方」というTEDの動画(動画へのリンクはこちら)の視聴がお勧めされていました。相川さんは、この動画のエピソードを引用しつつ、プロジェクトを動かすにあたって重要だと思っていることを説明されました。「多くの人が踊る」(=社会が変わる)ためには、誰かが勇気を出して最初に踊りだし、それに続く何人かが出てくる必要があります。ただ、相川さんが気になったのは、「踊り出す人がいたということは、映像では分からないけれど、そこに音楽がかかっていたのでは?」ということ。「もしかしたら、その場に流れていた音楽が知らない人同士をつなぐきっかけになったのかもしれない。そうであれば、音楽を鳴らす人が大事なのでは」と。つまり、大きな運動を起こすには、最初に物事を始めるリーダーやそれについていく数人のフォロワーはもちろん、それに加えて「場を作る人」も重要なのではないか、というお話でした。こうした役割を、ご自身の仕事においては、政策や現場を動かすために文章(提言や報告書など)を書くということで果たしてきたとのことでした。
他には、大学など研究機関の研究者やシンクタンクの研究員、コンサルタントは、活動の枠組みは異なるものの、同じ「知的産業」の住人であるのでは、ということ、そして、もっと職種間の移動があってもいいのではないか、ということなどもお話されていました。
不確実性が高い今の時代だからこそ、自分の興味の種を深掘りしていかなければならない。一方で、ご自身の経験から、「自分が『やりたいこと』をやるよりも、他者から『やってほしい』と求められた仕事をする方が良いこともある」というお話もありました。だからこそ、自分自身でしっかり考えてほしい、というメッセージをいただきました。
相川さんによる話題提供の後、質疑応答の時間には、多くの質問やコメントが寄せられました。シンクタンクで働いたり、コンサルタント業務を行ったりする上での相川さんのスタンスについて、また、業種間移動の実情について、「音楽を鳴らす人」としての考え方についてなどに関する質問がありました。業界で多様な経験を積んできた相川さんの独自の視点や信条を垣間見る事ができました。
実施後、参加者から届いた感想には、以下のようなものがありました。
「直接的に人をつなぐというよりは、人がつながる場やきっかけをつくる、という感覚が新鮮でした。確かに“つなぐ人”といってもその関わり方やモチベーションの位置は様々だと気づきましたし、自分もそういう仕事をするとして自分に合ったやり方でやればいいんだなと勉強になりました。」
「“音楽を鳴らす人”の例えが非常にわかりやすくて面白かったです。リーダーとフォロワー、そして場を作る人のどれに一番自分があっているか見極めていきたいなと思いました。」
文:古閑 修輝(薬学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員
【案内文】
2021年1月12日(火)、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)」の第4回を開催します。
第4回のゲストは、森林生態学・政策学をバックグラウンドに、林業やバイオマスエネルギーの「実践の現場」と「政策・学術の現場」を行き来しながら活動されている相川高信さんです。
複雑化する現代社会の中では、森林に求められる価値や機能も大きく変わってきます。人と森林とのよりよい関わり方を求めて、専門性や立場が違う人たちと協働していくためには、どんな人材が求められているのでしょうか。
また、個人としての専門性をどのように深めていけばよいのかについても、お話いただきます。
■第71回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)#4
○ゲスト:相川 高信 氏(自然エネルギー財団 上級研究員)
○日時:2021年1月12日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
*事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員
*全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
*この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○定員:30人程度(先着順)
○参加費:無料
○申込方法:以下の方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.gle/h9MheAEXMVLSNaUJ7)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。
2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付
申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。
ゲストプロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了(森林生態学)。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社を経て、2016年6月から現職。2016年3月に北海道大学大学院農学研究院より、森林政策学の分野で博士(農学)を取得。自然科学と社会科学、利用と保全、現場と学術の間に身を置き、統合化を意識した政策研究・提言を行っている。関連する論考として、「生態学コミュニティにおける他者の出現とコミュニケーション問題の顕在化」日本生態学会誌(2018)など。
プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「実践、政策、学術のつなぎ方:森林をフィールドとした場合」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)
○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2020年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター
本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…
こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。
マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。
「つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。
#1 12月15日(火)読売新聞 科学医療部・中島達雄さん
#2 12月22日(火)大阪大学経営企画オフィス URA・川人よし恵さん
#3 1月5日(火)京都大学iPS細胞研究所 医療応用推進室・荒川裕司さん
#4 1月12日(火)自然エネルギー財団 上級研究員・相川高信さん
#5 1月19日(火)てつがくやさん/カフェフィロ副代表・松川えりさん
フライヤー(PDF:521KB)