つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)#2 大阪大学経営企画オフィス URA・川人よし恵さん

科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2020年度夏)」の第2回が、2020年12月22日(火)に開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。Zoomウェビナーで開催したオンラインセミナーに22人が参加しました。



今回のセミナーに関して、参加していた2人の学生が開催レポートを書きました。以下、それぞれの視点で切り取った当日の様子です。どうぞご覧ください。

・1人目の開催レポート
今回のゲストは大阪大学経営企画オフィスでURAとしてお仕事をされている川人よし恵さんでした。「研究と社会をつなぐURA」というタイトルでお話しいただきました。URA(University Research Administrator)はリサーチ・アドミニストレーターと呼ばれる大学等で研究支援を専門に行う方々のことで、日本では2011年頃から文部科学省の施策的後押しにより各大学で本格的に配置されるようになったそうです。2018年に行われた文部科学省の調査によると、全国169の大学に約1500人のURAがいます。
川人さんの自己紹介からはじまり、これまで関わってこられた様々な「つなぐ」お仕事の具体例や、仕事をする上で大事だと考えていることなどのお話がありました。

川人さんは京都大学文学部(美学美術史学専攻)を卒業後、2000年に株式会社生活環境文化研究所に就職されました。そこは、阪神淡路大震災の復興事業等に関わっていた研究所で、アートをつかったまちづくりなどを行っていました。川人さんは、御前浜周辺整備計画に関わるワークショップを開催したり、港湾行政広報のため小中学校の総合的学習の時間のプログラム開発をしたり、といったことを担当されていたそうです。これらの仕事を通じて、互いの組織のミッションが違うところをすり合わせる難しさと面白さに気づいたとおっしゃっていました。

その後2007年からはフリーランス・プランナーとしてまちづくりやミュージアム企画・調査などの仕事をする傍ら、”こそっと研(子育てがもっと楽しくなるミュージアム作り研究会)”を立ち上げたそうです。当時、川人さんご自身が、小さい子ども(0-2歳児)とでも楽しめるような博物館や美術館に出かけたいと思っていたことからスタートした取り組みです。展示の工夫やツールの開発などを行ったり、博物館の方と連携してイベントを開催したりしていたとのことでした。

2010年、川人さんは大阪大学21世紀懐徳堂という社学連携組織に勤めることになります。こちらで仕事を始められた川人さんは、学内のアウトリーチ活動に関する実態を調査し、課題を整理し、報告書「大阪大学のアウトリーチ活動に関する調査・検討」にまとめるという仕事や、活動の見える化を目指した活動報告書の作成に取り組みます。これは、非常に良い評価を得たそうです。

また、21世紀懐徳堂では、研究者のアウトリーチ活動の受け皿となるべく、様々な活動を企画し運営していました。川人さんが新たに立ち上げたのは、大阪ガスと共同で行っている「アカデミクッキング」という試みです。大阪大学の研究者が講義をし、その後、参加者はその講義にちなんだ調理実習をし、おいしく食べるという企画でした。例えば、オートファジーの研究者をゲストに迎え、タコを使った料理をつくった、「困った時には自分を食べる?タコもびっくりオートファジー」という回などがありました。

そして、2012年9月からは、大阪大学のURAとしてお仕事をされています。URAといっても、URAがカバーする領域は幅広く、所属している大学やそのURAのバックグラウンドによっても仕事の内容が変わってくるとのこと。川人さんは着任当初は広報やアウトリーチ活動を中心に担当していましたが、現在は特定の仕事だけでなく外部資金の獲得支援や研究プロジェクトの立ち上げ支援など、幅広い業務に関わっているそうです。

具体例として、りそな銀行と一緒に開催をした「二頁だけの読書会」(専門書を二頁だけ取り出して、そこから研究者と参加者との対話がはじまるというプログラム)や「経営者・研究者のやや回り道対話サロン」(中小企業経営者の方と、人社系の研究者がディスカッションをするプログラム)の企画などを紹介していただきました。その他、URAのメルマガの執筆も。他にも日々、他大学や官公庁等からの様々な問合せに対応するなど、多様な「つなぐ」仕事に取り組まれています。

川人さんは「研究と社会をつなぐ」ということを改めて考えた時、「それはもともとつながっていて当たり前なのではないか?」と思ったそうです。「しかし、そのつながりが気づかれない、忘れられている、切れてしまっていることがあるかもしれない。また、もっと別のつながり方があるかもしれない。」とおっしゃっていました。「つなぐ」だけで仕事をしたことになるのか?と自問されることもあるそうです。「つなぐ」ことは目的でなく、あくまで手段。つないだ先の変化を見据えつつ、仕事を続けている川人さんでした。

つながった人脈も大切です。2014年に大阪大学・筑波大学・京都大学のURAと「人文・社会科学系研究推進フォーラム」という、大学教職員、行政関係者、資金配分機関関係者等が人文・社会科学系研究の課題や今後について議論するイベントを立ち上げました。今では8つの大学のURAが協力してこのフォーラムを運営するようになり、URAのつながり自体が仕事を進める上での欠かせないインフラになっているそうです。

最後に「つなぐ」仕事をする上で川人さんが大事だと思っていることを紹介してくださいました。そのなかでも特に次の3つのことが大事だそうです。1つ目は食べていくための仕事(ライスワーク)と自分が大事だと思う仕事(ライフワーク)の二つのバランスをよくすること。2つ目は、相手の話をよく聴いて理解すること。目的の共有はなかなか難しいけれど、とても大切なことです。そして、3つ目はプロジェクトマネジメントを大事にすること。

川人さんは「つなぐ」は「紡ぐ」に近いとおっしゃっていました。「大きな目標に向けて自分がカバーできるのは限られた範囲だけだけれど、目の前の目的のためにボールをつないでいく」という言葉が印象的でした。

川人さんが紹介してくださったお仕事はどれもアイデアが素晴らしく、川人さんが企画した「つなぐ」活動で今まで研究に興味がなかった人が知らないうちに興味を持ったり、新たな出会いによって可能性が広がったりすることが沢山あったのだろうなと感じました。「つなぐ」お仕事に関して常に自問しながら、目的をきちんと定め、共有し、確実に実現していく川人さんの姿はとてもかっこよく、感銘を受けました。

文:鈴木 由紀子(公開講座受講者)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


・2人目の開催レポート
この日のゲストは、大阪大学経営企画オフィスでURAとして働いていらっしゃる川人よし恵さんでした。URAとは、University Research Administrator の略称です。大学などに勤める研究支援の専門職で、学術的な専門性を理解し、多様な研究活動やそれに関する様々な業務に積極的かつ創造性を持って関わり、研究活動を活性化させるというような業務を行う人材のこと、だそうです。この後の川人さんのお話でも出てきますが、URAは研究者と市民、研究者と企業、あるいは研究者同士をつなげることを仕事にしている人たちとも言うことができそうです。
川人さんは、「手に職をつけなさい」と言われて育ったものの、その言葉に反発するように、手に職をつけることからは遠い文学部に進学。そして、フランス語を学びたいと思いパリに1年間留学するのですが、そこで黒澤明などの古い日本映画と出会い、感銘を受けて、美学美術史を専攻することを決意したそうです。大学卒業後は株式会社生活環境文化研究所で行政に関わる広報やまちづくり、小中学校の総合的な学習のための学習ツールの開発などのお仕事を担当されていました。その後、フリーのプランナーとして、0~2歳児とその親を対象としたミュージアム体験のためのプログラムやツールの開発(例えば段ボールで作った竪穴式住居の展示など)を行っていたのだそうです。

2010年から、大阪大学21世紀懐徳堂の特任研究員として大阪大学に勤務するようになった川人さんは、社学連携というキーワードのもとに様々な活動をされてきました。例えば、「アカデミクッキング」というイベントは大阪ガスとのコラボレーション企画で、大阪大学の研究者による講義と料理教室としての調理実習・試食とをかけあわせた新しい企画でした。これは、普段は学術的なことに関心がないけれど料理は好きというような人たちをターゲットにしたものでしたが、参加した研究者の方も満足度が高い企画だったそうです。こうした社学連携の多様な取り組みを可視化すべく、年次活動報告書も作成されていました。

このような経験を経て、2012年からは、大阪大学大型教育研究プロジェクト支援室(現 大阪大学経営企画オフィス URA部門)で、URAとして働くことになりました。URAといっても、その業務内容は多岐にわたっていて、研究者の外部資金の獲得支援、研究プロジェクトの企画やその支援、研究情報の発信支援など様々です。大学での研究というと、いわゆる理工系分野の研究がイメージされがちかもしれないのですが、川人さんは人文社会科学系、いわゆる文系の研究支援に関して精力的な活動をなさっています。例えば、大阪大学と包括連携契約を結んでいる企業との共同研究テーマ探求のワークショップに考古学や美学の研究者を巻き込んだり、人社系の研究者が執筆した学術書を2ページだけ取り出して参加者と一緒に読んで対話をするという「二頁だけの読書会」というプログラムを企画・実施したりといった活動をされています。また、「人文・社会科学系研究推進フォーラム」という人社系の研究のよりよい推進のあり方を模索するための場の立ち上げにも携わったそうです。

人社系の研究をどのように推進していくかという問題意識を持って活動されているというのが川人さんの特徴であると言えます。

最後に、「研究」と「社会」を「つなぐ」ことについての川人さんのお考えを紹介していただきました。「研究と社会は本来つながっているものだけれど、そのつながりがどこかで切れていたり、気付かれなかったりしている。それがカバーできればと思うが、どこからどこまでつないだら良いのだろう。」こういったことが頭によぎるそうです。また、「『つなぐ』は『紡ぐ』に近い」という言葉も印象的でした。「研究と社会をつなぐという大きな目標に向けて自分にできることは限られている。だからこそ、自分が受け取ったパスを他の人に回す。団体競技のメンバーのように」と。

URAというのは無味無臭の潤滑油のような人をイメージしてしまっていたのですが、今回のお話を受けて、イメージが少し変わりました。川人さん曰く、「個人の特性が出る仕事。同じことは自分にしかできないというものもある」とのこと。そして、「言われたとおりに仕事をこなすということとは違う」という発言からも、川人さんがURAという仕事に誇りを持ってお仕事をされているということが伝わってきました。「手に職をつけなさい」という言葉への反発から、最終的に専門性の高い職についた(つまり、手に職をつけた)というのが少し面白いなと思いました。

文:岸川 丈流(文学研究科 博士前期課程 2年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
2020年12月22日(火)、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2020年度夏)」の第2回を開催します。



第2回のゲストは、大阪大学でURAとしてお仕事をされている川人よし恵さんです。
URAとはどんなことをしている人?
研究(特に、人文・社会科学系の研究)と社会をつなぐ仕事って?
具体的な活動内容をご紹介いただきながら、研究と社会を「つなぐ」ために大切にしなければならないことを探ります。

■第69回STiPS Handai研究会
○題目:つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)#2
○ゲスト:川人 よし恵 氏(大阪大学経営企画オフィスURA部門 チーフ・リサーチ・アドミニストレーター/社会ソリューションイニシアティブ企画調整室員)
○日時:2020年12月22日(火)15:10〜16:40
○場所:オンライン会議システム
    *事前申込をされた方には、メールで参加方法をお伝えします。
○対象:主に、大阪大学の学生・教職員 
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎しますが、事前申込をお願いします。
○定員:30人程度(先着順)
○参加費:無料

○申込方法:以下の方法で、事前のお申し込みをお願いします。
1)ウェブフォーム
申し込みフォーム(https://forms.gle/h9MheAEXMVLSNaUJ7)から、必要事項を記入の上送信をお願いします。
2)メール
以下の項目を明記の上、メールでstips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jpまでお送りください([at]は@にしてください)。
・氏名(ふりがな)
・所属
・参加を希望する回の日付

申し込みいただいた方には、オンライン会議システムへの参加方法をメールにてお送りします。

ゲストプロフィール
京都大学文学部哲学科(美学美術史学)卒業後、民間企業で行政広報やまちづくり等に携わりながら、コミュニケーション企画とその実践の経験を積んだ後、2010年4月より大阪大学において研究と社会をつなぐ業務等に従事。現在は主に、人文・社会科学系と自然科学系の連携促進業務や研究広報業務などを担当。2018年10月より、社会ソリューションイニシアティブ(SSI)企画調整室兼任。大阪大学工学研究科博士後期課程在籍。


プログラム
1)はじめに(10分程度)
2)ゲストによる話題提供「研究と社会をつなぐURA」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

○その他:
・大阪大学COデザインセンターが開講する2020年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します。
・この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

○申込先・問い合わせ先:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
 stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター、大阪大学 社会技術共創研究センター


本シリーズについて
科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズです。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者も交えて議論します。

「つなぐ人たちの働き方(2020年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月15日(火)読売新聞 科学医療部・中島達雄さん
#2 12月22日(火)大阪大学経営企画オフィス URA・川人よし恵さん
#3 1月5日(火)京都大学iPS細胞研究所 医療応用推進室・荒川裕司さん
#4 1月12日(火)自然エネルギー財団 上級研究員・相川高信さん
#5 1月19日(火)てつがくやさん/カフェフィロ副代表・松川えりさん



フライヤー(PDF:521KB)