つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)#2 大阪大学共創機構 産学共創・渉外本部・本田哲郎さん


2019年12月24日(火)、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」第2回が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。学内外から24人が集いました。

今回のセミナーに関して、参加していた2人の学生が開催レポートを書きました。以下、それぞれの視点で切り取った当日の様子です。どうぞご覧ください。

・1人目の開催レポート
この日のゲストは大阪大学共創機構 産学共創・渉外本部の本田哲郎さんでした。最初に、本田さんご自身の経歴についての紹介がありました。本田さんは薬学部にて薬剤師免許を取得後、パナソニックへ就職されました。パナソニック在籍中には大阪大学との共同研究もされていたそうです。阪大に出入りしていた頃、偶然、産学共創・渉外本部が実施する科学技術をベースにした事業化を実践する研修プログラム(G-TEC)の案内を見かけ、これだ!と思って受講したという経験が今につながるきっかけの1つだそうです。大学発技術の事業化に対して強い興味を抱くようになり、2017年には、大阪大学共創機構 産学共創・渉外本部に転職されました。

次に、産学共創・渉外本部でどのようなお仕事をされているのか、「研究がビジネスになる瞬間」というタイトルでお話しいただきました。本田さんは、いま、産学共創・渉外本部で大学の特許・技術を企業につなぐ産学連携や、ベンチャーの創業支援のお仕事をされています。具体的には、まず、大学内の研究者に研究成果のヒアリングを行います。そして、その研究者と技術の応用先や用途についてブレインストーミングを重ね、これを基に想定される顧客や専門家へのヒアリングを行います。最終的にマッチングが成立すればその事業化へ向けた協業への支援を行ったり、またマッチングができなくても事業化が見込めれば、ベンチャーの創業支援を行ったりします。本田さんにはこのプロセスについて実例を交えながら説明していただきました。研究の学術的な価値とビジネス的な価値の間には大きなギャップがあるので、その間の「翻訳」を行うのがご自身の仕事であるとまとめられました。

そして、今回のセミナーシリーズのテーマでもある「つなぐ人」に求められることについてもお話しいただきました。本田さんは、「つなぐ人」を、ラグビーに例えて、「一時的に研究者に代わって「ボール」を持って走る人」なのではないかと説明されていました。ラグビーはボールをパスするときには、横か後ろにしか投げられません。誰かが自分でボールを持って前に走らないとゴールには近づくことはできません。何か新しい事業を立ち上げようとするときにも、立場の違う人と人を繋ぐことが必要ですが、どちらかに強いやる気がないと、なかなか前に進まない(つまり、「ボール」が横や後ろにしかパスされない状態)となってしまうことがしばしばあるそうです。「ボールを持って前に走る」ためにも、つなぐ人には事業化のプロセスを応援したいという情熱に加えて、素直に人へ質問できるという素質や、いろんなことに好奇心を持つことが大事なのだそうです。

質疑応答の時間では、主に企業との交渉やベンチャー創業支援に関する質問と、つなぐ人としての役割に関する質問がありました。「基礎的な研究を産業側が買い取って事業化しようとする流れが日本でも少しずつ起こってきているが、この流れは今後も加速していくと考えるか?」という質問には、「ベンチャーをおこすことができそうな研究成果へ投資しようとする投資家は増えてきているものの、その一歩手前の基礎的な研究段階から支援をする投資家は、日本ではまだほとんどいない」というお答えがありました。また、大学発ベンチャーに常に付き纏う問題として、研究について理解があり、経営判断も可能な、ベンチャーの社長に適した人材が不足しているという問題提起もありました。

また、「つなぐ人として、何が評価されているのか?」という質問もありました。本田さんは「忘年会に呼ばれること」と冗談交じりに語っておられましたが、会場からあがった「互いに思ってもいなかった相手を繋げられたら単純に面白いのだから、評価ということはあまり気にせず、面白さを原動力にしてお仕事をされているのでは?」というコメントに納得されているようでした。

企業との交渉やベンチャー創業支援といったお仕事は、学生には少し縁遠いものに感じられます。しかし本田さんは、ご自身のお仕事について実例を交えながらお話してくださったので、お仕事を身近に感じながら「つなぐ人」について考えを深めることができました。

文:沼野 正太郎(生命機能研究科 博士課程3年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


・2人目の開催レポート
本田さんは大阪大学の共創機構において、研究者と社会をつなぐ最前線でお仕事をされています。今回は本田さんの自己紹介から、具体的な事例を基にしたお仕事の紹介、また、つなぐ人の働き方について話題提供をいただきました。

自己紹介:
小学校のころから理科や虫取りが好きだった本田さんは、高校では、携帯電話の待ち受け画面を「一生化学」と書かれた画像にするほど、化学に熱中していました。「化学が好きだったら薬学部に行ったら?」とアドバイスを受け、薬学部への進学を決意します。大学では薬剤師免許取得の勉強、糖尿病薬の研究、そして、オーケストラの活動と、自分のやりたいことに正直に過ごしたそうです。薬学部を卒業する人の多くは、薬剤師として薬局や病院に就職するか、公務員になるという中、本田さんはパナソニックのグループ会社に就職し、医療機器開発に携わるという選択をします。

大阪大学との共同研究を担当していた頃、G-TECという科学技術の事業化に取り組む研修プログラムに参加するという経験をしたことで、大学発技術の事業化に興味を抱くようになったそうです。2017年にパナソニックを退社し、共創機構 産学共創・渉外本部に着任されました。

研究がビジネスになる瞬間:
大阪大学で進められている研究をビジネスへ展開する時の支援を行うことが、今の本田さんの仕事内容です。産学共創・渉外本部では、ビジネスにつながりそうな研究を学内から探し出す、あるいは研究者から依頼をうけ、研究成果のヒアリングを行うことから、その仕事が始まります。応用先や用途に関して研究者とのディスカッションを重ね、想定される顧客や専門家へのヒアリングを通して方針を決定します。調査や議論の結果を基に、企業との共同研究、あるいはベンチャーの創業の支援を行うというのが一連の業務です。

本田さんが扱ってきた案件は、半導体デバイスのような本田さんのバックグラウンドと全く関わりがないものもあるようですが、専門家からレクチャーを受けたり、教科書を読んだりと、異分野であっても積極的なアプローチを続けていらっしゃいました。また、本田さんが企業で働いていたときの人脈など、多くの人とのつながりが活かされており、異分野の多種多様な人たちとのコミュニケーションがそれらの活動を支えているとのお話でした。

つなぐ人の働き方:
つなぐ人に対して、本当に必要なのか、やる気のある人がやっていることなのか、というような懐疑的な印象を持たれてしまうことは十分に考えられます。また、大学と企業をただ引き合わせて、放置するだけではいい結果は生まれません。研究成果を課題解決の手段や人の役に立つものへと変えること、すなわち学術的な価値からビジネス的な価値への「翻訳」を行う人こそが「つなぐ人」であるとのことでした。さらに、発明と研究結果に敬意と応援する気持ちをもち、研究者の代わりに一時的に代走することで、立場の違う人たちのやる気をつなぐことこそがつなぐ人の役割であるともおっしゃっていました。また、つなぐ人にとって、素直に質問できること、好奇心をもつこと、専門分野を掘り下げた経験があることは重要な要素であるというお話でした。

後半は質疑応答とディスカッションの時間です。特に、本田さんが実際に担当してきたプロジェクトや、大学と企業の連携の実態に関する議論が多く、研究とビジネスの間にいるからこそ見つけられる課題や、仕事のおもしろさについてご紹介いただきました。薬剤師、大企業での研究者という経歴をもちながら、「つなぐ人」の仕事を選択した本田さんの豊かな経験と独自の視点が非常に印象的でした。

文:川端 玲(工学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員



【案内文】
2019年12月24日(火)に、大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロンにおいて、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」の第2回を開催します。

第2回(12/24)のゲストは、大阪大学共創機構 産学共創・渉外本部でリサーチ・アドミニストレーターとしてお仕事をされている本田哲郎さんです。元々はパナソニックにお勤めだった本田さん。数年前から、大阪大学で、大学の特許・技術を企業につなぐ産学連携や、ベンチャーの創業支援のお仕事をされています。

大学と企業、そのどちらの現場も経験されている本田さんから、「研究がビジネスになる瞬間」をお伺いします。



■第57回STiPS Handai研究会 ○題目:つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)#2
○ゲスト:本田 哲郎 氏(大阪大学共創機構 産学共創・渉外本部 リサーチ・アドミニストレーター)
○日時:2019年12月24日(火)14:40〜16:10(開場 14:30)
○場所:大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロン
○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
この「ウェブフォーム」への入力をお願いします。
または、
件名を「12月24日参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター

概要 科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論します。

大阪大学COデザインセンターが開講する2019年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。


プログラム 1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「研究がビジネスになる瞬間」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール 京都薬科大学 薬学部薬学科卒業。薬剤師免許取得。2013年4月より、パナソニックグループにて医療機器のR&Dに従事。2017年1月より、パナソニック(株)にて、住空間の光環境に関するR&Dに従事。2017年9月より現職。大学の研究成果をもとに企業との協業交渉やベンチャー創業支援に取り組む。

本シリーズについて 「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月17日(火) 毎日放送 報道局・大牟田智佐子さん
#2 12月24日(火) 大阪大学共創機構・本田哲郎さん
#3 1月7日(火) 地域ビジネス実践者/起業家・八百伸弥さん
#4 1月14日(火) 国立情報学研究所 副所長/弁理士・篠崎資志さん
#5 1月21日(火) 哲学者/カフェフィロ 副代表・松川えりさん


FlyerrA4_STiPSHandai_2019win(PDF:378 KB)