つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)#1 毎日放送 報道局・大牟田智佐子さん


2019年12月17日(火)、毎日放送報道局・大牟田智佐子さんをお招きして、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」第1回が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。この日の参加者は15人。大阪大学の学生や教職員だけでなく、学外からも人が集まり、意見を交わしました。

今回のセミナーに関して、参加していた2人の学生が開催レポートを書きました。以下、それぞれの視点で切り取った当日の様子です。どうぞご覧ください。

・1人目の開催レポート
この日、まずは大牟田さんより「放送メディアの現場から考える震災25年」というタイトルでお話を伺いました。

大牟田さんは英文学科を卒業後に毎日放送に入社され、入社4年目にテレビ報道の記者になられました。当時近畿地方に起こると予測されていた地震を見据え、突然「地震専門の記者」に任命されたそうです。地震について主に科学技術の側面から取材を始めることに。ところが、1年も経たないうちに阪神・淡路大震災が起こりました。実際の「震災」で、地面の揺れだけではない震災の実態や復興までの長い苦しみを実感されました。この体験をもとに、現在も災害報道に携わっておられるそうです。その後ラジオ報道に異動、2011年から現職に就かれています。そして今年の4月からは、お仕事を続けながら兵庫県立大学減災復興政策研究科博士後期課程に入学され、災害報道について研究もされています。この日は、SNSや携帯電話、インターネットが普及していない時代に、主なメディアであったテレビとラジオ、両方に携わった経験からお話を伺いました。

お話の途中、当時のテレビ報道とラジオ番組を実際に視聴する時間がありました。その上で、受ける印象はテレビとラジオでどのように違うかを考えてみました。テレビは映像だけで情報を伝えることができるということが特徴で、被災者よりも、被災していない人や行政機関に向けて情報を伝える役目を主に担っていたとのことでした(鳥の目)。それに対してラジオは、実際に被災された方に長時間お話をしていただいたり、具体的な避難情報などが放送されたりしたそうです。被災者向けの情報を発信するという役割を担っていたそうです(虫の目)。

テレビとラジオでは、普段からの「視聴者とのコミュニケーションの取り方」も違います。テレビは記者により十分な取材がされて番組が作られ、より客観性・確実性が重視されています。それに対し、ラジオは普段から「分からないことはリスナーに聞け」と言われるそうで、はがきやFAXで視聴者からの意見を募集することが多くあります。普段からリスナーとコミュニケーションを取るメディアだからこそ、震災発生当時、ラジオで個人の安否情報や電話番号を放送するということができました。また、ラジオでは、パーソナリティが自分の判断で、自分の言葉で現状を伝えることができるという特徴もあるそうです。

それでは、テレビやラジオに比べ、新聞はどのような特徴があるのでしょう。新聞はどうしても情報にタイムラグが出ます。しかし、紙媒体であるため、掲載されている情報をくり返し見られること、手元に残せることが大きなメリットであったそうです。(神戸の地元紙は阪神・淡路大震災が起こった当時、印刷所が壊れ、大変苦労して新聞を発行されていたそうです。)

いま大牟田さんは大学院で「ニュース」ではなく「オールド」、過去を調べることで災害「予防期」の報道について学んでいらっしゃいます。最近も日本で地震などの災害が起っています。実際の被災地に足を運び、被災者の支援等を通してこれからの報道のあり方を考えているとのことでした。

参加者からは、報道される話題の選択基準について、東日本大震災でも問題になった「デマ」について、また、安全とプライバシ―を両立させる手段について、情報の入手手段が多様になった現代における情報提供方法についてなど、さまざまな質問が寄せられました。

終了時間いっぱいまでやりとりは続き、実際の報道現場にいらっしゃる大牟田さんのお話に参加者の興味は尽きませんでした。

文:吉田 寛子(医学系研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員

・2人目の開催レポート
この日は毎日放送 報道局 大牟田智佐子さんをお招きしました。まずはご自身の自己紹介からスタートしました。毎日放送に入社し、入社4年目で「地震記者」となった大牟田さん。英文学科出身の大牟田さんにとって「地震記者になれ」という指示は突然のものだったそうです。

「もし近畿地方に直下型の地震が起きたら」というテーマでテレビ番組を企画していた最中に阪神・淡路大震災が起こったのだそうです。地震(兵庫県南部地震)自体は約11秒間。この揺れで高速道路の倒壊や火事など甚大な被害が引き起こされ、戦後最大の死者数(当時)を記録しました。震災前、大牟田さんは、地震というのは「数秒の間地面が揺れること」だと思っていたそうです。しかし、震災を経験してからは、地震とはただ地面が揺れるだけではなく、それによって建物が壊れ、火災が起き、人が亡くなることであることを実感されたとのこと。

災害報道に携わるようになった大牟田さんでしたが、震災から3年後にテレビ局からラジオ局に異動となりました。ラジオ局へ異動し災害報道番組「ネットワーク1・17」の制作に携わるようになったものの、当時はテレビとラジオの災害報道のスタンスの違いに困惑したそうです。テレビでは実際に起こっていることを映すことを重視し、“ウラ”をとってから報道します。ラジオでは視聴者に寄り添うことを重視し、被災者・支援者の目線に立った報道を行います。リスナーとの間の信頼関係をベースに、地震直後は裏取りなしでリスナーから得られた情報を放送するということもしていました。

当時のテレビで流れた映像とラジオ番組の一部をそれぞれ視聴し、この違いを実感する時間も設けられました。テレビの映像は倒壊した高速道路や焼けた商店街を映したものなのに対し、ラジオではリスナーとパーソナリティの方が直接やり取りをしているのが印象的でした。

テレビが被災地の外にいる人々に対して情報を伝える「鳥の目」の役割を果たし、初動対応や救援活動のカギにもなりうるメディアであるということに対し、ラジオは被災地に今いる人々にとって命を繋ぐための生活情報を伝える「虫の目」の役割を担うメディアであるそうです。どちらもそれぞれの役割がある一方でラジオではリスナーとのトークの中で防災を伝えたり、亡くなった方の体験を伝えたりテレビでは出来ない側面があるということを教えていただきました。

大牟田さんは今年の春から大学院にも通っていらっしゃるそうです。「同じ災害が起きたら同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない」、そんな事態を回避するために大学院で学ぼうと思われたそうです。

災害を減じるための方法として減災サイクルというものがあり、大牟田さんはこのサイクルの「予防期」といわれる期間に注目しています。予防期にどのように、何を伝えることが減災につながるのかを、考えたいとのことでした。

大牟田さんからの話題提供の後は、質疑応答の時間です。テレビやラジオなどのそれぞれのメディアの役割、報道機関としてのデマへの対処、震災当時の報道の反省点など様々な観点の質問が飛び交い、活発な意見交換が行われました。テレビ、ラジオ両方の制作現場で災害報道を経験した大牟田さんのお話はとても興味深く、メディアによる科学技術と社会とのつなぎ方について知見を得ることが出来ました。

文:松田 勇希(工学研究科 博士前期課程2年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員



【案内文】
2019年12月17日(火)に、大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロンにおいて、セミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」の第1回を開催します。
今回のゲストは、毎日放送 報道局・大牟田智佐子さんです。

今シーズン第1回(12/17)のゲストは、毎日放送 報道局の大牟田智佐子さんです。
阪神・淡路大震災が発生した当時、テレビ報道記者として地震をテーマとする報道番組の制作に関わっていらっしゃいました。
それ以来、テレビとラジオ両方の番組制作現場を経験しながら、災害報道について考え続けている大牟田さん。
番組制作時に大切にしてきたことや、メディアだからこそできる科学技術と社会のつなぎ方についてお伺いしたいと思います。


■第56回STiPS Handai研究会 ○題目:つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)#1
○ゲスト:大牟田 智佐子 氏(毎日放送 報道局 クロスメディア部 部次長)
○日時:2019年12月17日(火)14:40〜16:10(開場 14:30)
○場所:大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロン
○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
この「ウェブフォーム」への入力をお願いします。
または、
件名を「12月17日参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
○共催:大阪大学COデザインセンター

概要 科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたい…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

マスメディアや研究機関、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事を創り出すということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論します。

大阪大学COデザインセンターが開講する2019年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。


プログラム 1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「放送メディアの現場から考える震災25年」(30分程度)
3)質疑応答&ディスカッション(50分程度)

ゲストプロフィール 同志社大学文学部英文学科卒業後、毎日放送入社。入社4年目にテレビ報道の記者になり、1994年、突如地震の専門記者を命じられる。「近畿にも直下型地震」をテーマに1995年3月放送を目指し特別番組を企画中、阪神・淡路大震災を迎える。「地震記者と名乗りながら何をしていたのか」という反省のもと災害報道に携わり、1998年、ラジオ報道に異動後は震災番組「ネットワーク1・17」のプロデューサーに。研究者・ボランティア・被災者・震災遺族など被災地を取り巻く人々とつながり番組を制作する。2011年から現職。2019年4月、兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科博士後期課程に入学、災害報道について研究中。



本シリーズについて 「つなぐ人たちの働き方(2019年度冬)」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月17日(火) 毎日放送 報道局・大牟田智佐子さん
#2 12月24日(火) 大阪大学共創機構・本田哲郎さん
#3 1月7日(火) 地域ビジネス実践者/起業家・八百伸弥さん
#4 1月14日(火) 国立情報学研究所 副所長/弁理士・篠崎資志さん
#5 1月21日(火) 哲学者/カフェフィロ 副代表・松川えりさん


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