つなぐ人たちの働き方シリーズ #2 徳島大学 副学長・斉藤卓也さん 「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)(41)開催


2018年12月11日(火)、徳島大学副学長の斉藤卓也さんをお招きして、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」第2回を開催しました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。この日の会場(大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構ステューデントコモンズ2階セミナー室A)には授業の履修者以外の学生や学外の方など、計23人が参加しました。

斉藤さんはこれまでも何度かSTiPS Handai研究会にお越しいただきました。昨年お招きした際(2017年7月11日開催)には文部科学省でお仕事をされていましたが、現在は徳島大学の副学長を務めていらっしゃいます。今回は国と地方の両方の視点からお話しをしていただきました。斉藤さんの根底にあるのは「この先の日本が、自分の子供たちの世代においても、日本に生まれて良かったと思える国であってほしい」という想いだそうです。資源のない日本が長期的に国力を維持するために必要なのは高度人材である、という考えを冒頭に述べられました。

まずは自己紹介を兼ねて、斉藤さんがこれまで考えてこられたことや自身のキャリアパスについてのお話がありました。大学は理系の学部に進学された斉藤さんですが、エネルギー問題に興味を持ったこともあって科学技術庁に入庁し、大型実験施設の整備や科学技術に関わる事故への対応にはじまり、予算調整の仕事、科学技術担当大臣の秘書官など、科学技術政策全般を経験されてきたそうです。国家公務員は激務ではあるものの、日本全体を俯瞰することができる、その分野のトップクラスの専門家と一緒に仕事ができるといった国家公務員ならではのやりがいについても触れられていました。その後、徳島に赴任して感じた「霞が関からは見えなかった地方の強みと弱み」について分析しながら、科学技術政策に係る現在の日本が抱える課題と今後目指すべき方向性へと話が展開されていきました。

斉藤さんからは、「日本から見た徳島=世界から見た日本?」という参加者への投げかけもありました。具体的には、「小さな地方都市の徳島だったとしても、違う価値観で戦えば十分東京とも渡り合える」というコンセプトを紹介しているサイト「徳島は宣言する VS東京」を紹介しながら、様々な問題が表面化してきた日本の科学技術も見方を変えればまだまだ大きな可能性を秘めているのではないだろうか、というお話でした。

しかし、そのためには合理的な政策策定のための新しい仕組みが重要だと主張されていました。AIの台頭で社会の大変革期にあるこの時代において、これまでのような「現状+あるべき姿」から今やるべきことを決めるという方法では行き当たりばったりの政策になってしまう。目指すのは「局所最適ではなく全体最適」であり、これを達成するには現在の審議会行政には限界がある、とのことでした。実際に斉藤さんが取り組まれた活動等も織り交ぜながらお話をしていただいたので、現在の課題と解決のための1つの方向性が端的に理解できました。

最後に、日本の強みと弱みについて、そして、現場の声を政策に活かすための実践例についてお話しいただき、参加者との質疑応答・ディスカッションに移りました。参加していた学生からは、様々な活動で拾い集めた現場の声がどのように政策に反映されているのかという質問や、そもそも決定された政策を見ると現場の声が伝わっていないように感じるのは何が問題となっているのかという質問が出ました。斉藤さんが強調されていたのは多様性とバランスを確保することの重要性です。もともと政策形成に関わるのは一定の年齢以上のいわゆる「お偉いさん」であることが多く、多様な年代から成る現場の声が届きにくい環境があります。これまでは現場の声を拾う仕組みがほとんどなかったため、斉藤さんは「日本の科学を考えるガチ議論」のような研究現場の声を届けるチャンネル作りを行ってこられました。しかし、個々の主張はあっても、大学としての声、研究者全体としての声にはなっていないため政策にはなかなか反映されにくいという課題もあるとのことでした。現場の声を“全体として”伝える重要性を理解できる回答でした。その他にも時間ギリギリまで質問が相次ぎ、研究会終了後も斉藤さんの周りで活発な議論が巻き起こっていました。

文:足立 惇弥(基礎工学研究科 博士前期課程)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
2018年12月11日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズにおいて、「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)を開催します。今回のゲストは、徳島大学 副学長・斉藤卓也さんです。


■第41回STiPS Handai研究会 ○題目:つなぐ人たちの働き方シリーズ #2
○ゲスト:斉藤 卓也 氏(徳島大学 副学長)
○日時:2018年12月11日(火)16:20~17:50(開場 16:10)
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
 ステューデントコモンズ2階 セミナー室A

○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎です。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
ウェブフォームへの入力をお願いします。
または、
件名を「第41回STiPS Handai研究会・参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点
○共催:大阪大学COデザインセンター


概要 何か科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではないかもしれない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたいのだけれど…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするイベントシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

研究機関の広報室やNPO法人、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事をつくっていくということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論したいと考えています。

大阪大学COデザインセンターが開講する2018年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

第2回(12/11)のゲストは、徳島大学副学長の斉藤卓也さんです。
文部科学省で科学技術政策を専門に活躍されてきた斉藤さん。日本分子生物学会が企画した「生命科学研究を考えるガチ議論」などにも関わるなど、研究現場の声を政策に反映するためのさまざまな活動やネットワーク作りのための活動にも取り組まれてきました。
今回は、徳島大学に活動の拠点を移されてから、どのようなことをされているのか、科学技術政策はどのように見えるようになったのか、などをお聞きしたいと思います。

プログラム 1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「科学技術政策〜文部科学省から見える世界と徳島大学から見える世界〜」
3)質疑応答&ディスカッション
ゲストプロフィール 東京大学工学部電気工学科を卒業後、1995(平成7)年に科学技術庁へ入庁。
2014(平成26)年に山口俊一内閣府特命担当大臣(科学技術、IT、知財、クールジャパン)秘書官、文部科学省研究振興局基礎研究推進室長を経て、2017(平成29)年8月から現職。
徳島大学では、産学官連携による地方創生などに取り組んでいる。

本シリーズについて 2018年度冬「つなぐ人たちの働き方シリーズ」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月4日(火) 京都大学総合博物館・塩瀬隆之さん
#2 12月11日(火) 徳島大学 副学長・斉藤卓也さん
#3 12月18日(火) NPO法人市民科学研究室 代表理事・上田昌文さん
#4 1月8日(火) 京都大学iPS細胞研究所 国際広報室・和田濵裕之さん
#5 1月15日(火) 朝日新聞大阪本社 科学医療部 記者・合田禄さん

FlyerA4_STiPSHandai_2018win_181116(PDF: 406KB)