つなぐ人たちの働き方シリーズ #1 京都大学総合博物館・塩瀬隆之さん 「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)(40)開催


2018年12月4日(火)に、科学技術と社会のあいだで活躍する実践者から学ぶセミナーシリーズ「つなぐ人たちの働き方」の第1回が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。この日は、京都大学総合博物館の塩瀬隆之さんをお招きしました。「博物館の展示をデザインする~時間を超えて人と人がつながる仕掛けづくり~」というテーマで、塩瀬さんが実践されてきたさまざまな活動についてご紹介いただきました。会場には学内・学外あわせて、52人の参加者が集いました。

まず塩瀬さんは、博物館を「時空のすれ違い」をつなぐ場であるという独自の博物館像をお話されました。博物館は、鑑賞するわれわれを含めて、本来同時に存在しないはずの異なる時代の展示物が一堂に会する特異な場とのこと。ただ、多くの人は、展示物の前をなんとなく通り過ぎたり、与えられた説明に対して受け身で鑑賞したりするかもしれません。「じっくり展示物を鑑賞」してもらうために、単なる展示物鑑賞という枠を飛び出し、塩瀬さん自身が思い描く博物館像を実現すべく、体験型のワークショップをいくつも展開されているそうです。今回はその一部を映像や資料を交えてご紹介いただきました。

なかでも特徴的だったのは、「参加者が展示品になってみる」という前代未聞とも言える企画。「〈博物館〉と〈市民〉をつなぐ」ことを目的として、開館前の三重県総合博物館で行われたもの(ワクワクワークショップ「100年残す!? 三重のモノ、コト、ワタシ」)だそうです。ワークショップの参加者は博物館の搬入口に集合し、展示物を撮影したり、保存のための処理をしたりするスペースも通過しながら、保管庫の中を見学し、最終的には、展示ケースに入って並んでみるという、収蔵物・展示物が通る一連のプロセスを体験することができました。このワークショップでは、参加者全員が展示ケースに並ぶことができましたが、実際には博物館の収蔵物すべてが表に展示されるとは限りません。本来は、その展示会ごとのテーマによって展示されるものが選ばれます。「普段見ている展示物がさまざまな背景(ストーリー)をもって目の前に在る」ということを、身をもって体験し、そのことによって参加者は、自分で博物館の楽しみ方を発見できるのではないかということでした。つまり、このワークショップでの体験を通して、博物館で単に受け身で鑑賞をするのではなく、展示物それぞれのストーリーを想像する、いわばコミュニケーションする場として博物館を捉えることができるようになる、ということを目指したのだそうです。


こうしたワークショップという形態はどうしても対象を限定してしまうという課題が付きまといます。参加者からのそうした旨の質問に対しての塩瀬さんの返答は非常に示唆的でした。例えば、科学技術に関わるイベントを実施すると、参加者はどうしても科学に関心のある人や、専門的な素養のある人に限られてしまいます。大多数の人々は科学と日々暮らしを共にしているにもかかわらず、そこに興味関心を持たなかったり、そもそもワークショップへの参加に抵抗があったり、また、専門的な内容にひるんでしまったりするかもしれません。結果的にこれらの条件を満たす特定の層へのアプローチに留まってしまうことが主催側の切実な悩みとしてしばしば挙げられます。それに対して、塩瀬さんは「いかに親しみのある内容を届けることができるか」だとお話されていました。その具体的な実践例として挙げられたのは、化学と和菓子のコラボレーション企画「和菓子でまなぶ化学―理論化学者と和菓子職人が語る教室―」でした。これは、2018年12月9日まで開催されていた企画展「ノーベル賞化学者を育んだ教室」の関連イベントとして行われたもので、この会のために新しくデザインされたフロンティア軌道理論が表現された和菓子を試食しながら、理論化学者と和菓子職人のお話を聞くという会だったそうです。この企画展では他にも、理論化学を説明するために折り紙を使った展示もあったとのこと。関心をもってもらえそうな話題の中に、たとえ少しでもこちらの伝えたい要素が入っていれば、普段は接する機会のないことでもいつのまにか興味をもらえるかもしれない。そのような発想でワークショップなどを企画しているとおっしゃっていました。

ここでも、塩瀬さんが強調されていたのは、参加者自身と対象展示との積極的なかかわり、そのプロセスを通して「自分で発見する」ということが、純粋な楽しみを生み、結果として学びや理解が促進される、ということでした。

こうした取り組みをされている塩瀬さんが普段から意識されていること、塩瀬さんの活動の原動力などをお伺いすると、「とにかく、どうすればおもしろくなるかを日々考えている」とのことでした。いかに好奇心を折らないかということに心を砕くと。その強い信念が垣間見られるかのようなお答えをいただきました。

こうした参加者とのやり取りは、終了予定時間を過ぎてもなお、その熱冷めやらず、強い好奇心に動かされた参加者が積極的に塩瀬さんとのお話を楽しまれていました。

文:西川 晃弘(文学研究科 博士前期課程1年)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員



【案内文】
2018年12月4日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズにおいて、「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)を開催します。今回のゲストは、京都大学総合博物館・塩瀬隆之さんです。


■第40回STiPS Handai研究会 ○題目:つなぐ人たちの働き方シリーズ #1
○ゲスト:塩瀬 隆之 氏(京都大学総合博物館 准教授)
○日時:2018年12月4日(火)16:20~17:50(開場 16:10)
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
 ステューデントコモンズ2階 セミナー室A

○対象:どなたでも
 *全学部生・全研究科大学院学生を対象とした授業の一環として実施します。
 *この日は、学内、学外を問わず、履修登録者以外の方の参加も歓迎です。
○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:
ウェブフォームへの入力をお願いします。
または、
件名を「第40回STiPS Handai研究会・参加申込」として、以下の項目を明記の上、メールでお送りください。
・氏名(ふりがな)
・所属
○申込先・問い合わせ先:stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp([at]は@にしてください)
○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点
○共催:大阪大学COデザインセンター


概要 何か科学や技術に関係する仕事がしたいけれど、研究者になりたいわけではないかもしれない…
大学で学んだ専門を活かせる仕事に就きたいのだけれど…

こんなモヤモヤした将来への悩みを抱えている方にお届けするイベントシリーズ「つなぐ人たちの働き方」を開催します。

研究機関の広報室やNPO法人、行政機関といった、多彩な現場で活躍されているゲストから、
・異なる領域の間で働くということ
・自分の専門を現場で活かすということ
・専門が活きる仕事をつくっていくということ
などについてお話を伺いながら、参加者全員で議論したいと考えています。

大阪大学COデザインセンターが開講する2018年度冬学期授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催しますが、この日は、履修登録者以外の方の参加も歓迎します。

第1回(12/4)のゲストは、京都大学総合博物館の塩瀬隆之さんです。
「塩瀬さんって何もの?」というぐらい多彩な活動をされていますが、今回は博物館の展示の企画制作に関わるお話を中心にお聞きしたいと思っています。
12月9日まで開催中の京都大学総合博物館2018年度企画展/福井謙一博士生誕百年記念展示「ノーベル賞化学者を育んだ教室―応用をやるには、基礎をやれ―」の制作裏話も聞けるかもしれません。

プログラム 1)はじめに
2)ゲストによる話題提供「博物館の展示をデザインする〜時間を越えて人と人がつながる仕掛けづくり〜」
3)質疑応答&ディスカッション
ゲストプロフィール 京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院修了。博士(工学)。
京都大学総合博物館准教授を経て、2012年7月より経済産業省産業技術環境局課長補佐(技術戦略担当)。2014年7月京都大学総合博物館准教授に復職。
共著書に、『科学技術Xの謎』『インクルーシブデザイン』など。
日本科学未来館“おや?”っこひろば総合監修者、NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員、中央教育審議会初等中等教育分科会「高等学校の数学・理科にわたる探究的科目の在り方に関する特別チーム」専門委員なども務める。

本シリーズについて 2018年度冬「つなぐ人たちの働き方シリーズ」は以下のようなスケジュールで実施します。

#1 12月4日(火) 京都大学総合博物館・塩瀬隆之さん
#2 12月11日(火) 徳島大学 副学長・斉藤卓也さん
#3 12月18日(火) NPO法人市民科学研究室 代表理事・上田昌文さん
#4 1月8日(火) 京都大学iPS細胞研究所 国際広報室・和田濵裕之さん
#5 1月15日(火) 朝日新聞大阪本社 科学医療部 記者・合田禄さん

FlyerA4_STiPSHandai_2018win_181116(PDF: 406KB)