日本人の死生観から生命倫理を学ぶ 「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)(39)開催


2018年7月17日(火)、京都大学のカール・ベッカーさんをお招きして、第39回「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)「日本人の死生観から生命倫理を学ぶ」を開催しました。この日の会場(大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズ1階 カルチエ・ミュルチラング)には、17人が集まりました。学外からお越しの方や大阪大学の教員も参加しました。

ベッカーさんからは、1時間ほどで、おもに高齢社会の観点から現在の医療技術や施術の実態について、日本の伝統的な考え方や経験智を参照しながら、問題提起がおこなわれました。キーワードとしては、「直線的ではなく循環的な考え方や社会のシステム」、「現在だけにとどまらず、祖先や子孫まで見据えた時間感覚」などがあげられ、その事例が示されました。

その上で、現在の日本の高齢者医療の実態やその問題点などが提示されました。たとえば現状では(一度始めたらなかなかやめられない)呼吸器などの延命治療は、患者の事前指示は無くとも多く施術されていること。政府の財政は逼迫していて、国民の負担がさらに増えることになるのに、次々と医療が施され、税金が投入されている現状。そしてその背後にある、施術をすることで医療機関が儲かるようになってしまっている社会システムの問題。また、今の日本では、メディアが死者を映さないことに象徴されるように、社会全体で「人間はいつか死ぬ」という現実を踏まえた議論がおこなわれていないことなどがあげられました。

また、脳死状態における臓器提供については、フランスや台湾などでも活発な国民議論がおこなわれていたり、アメリカでは運転免許証の更新時にレクチャーがおこなわれたりするなど、各自が考えざるを得ない時代になっている。それに対し、日本では法律はあるものの、国民はその内容を知っているとは言えない状況で、議論すらおこなわれておらず、法律や医療現場での対応と、国民の意識が乖離してしまっていることなどが指摘されました。

ベッカーさんの話題提供に引き続いた質疑応答・ディスカッションの時間には、「今の日本は総じて議論をしたがらない空気があって、とくに死などのしんどい話題を話したがらないがどうしたら良いか?」といった問いや、「大学が社会に出て行ってさまざまな議論を活発にしていく必要性があるのでは」など、熱心な意見交換がおこなわれました。

文:小林万里絵(大阪大学COデザインセンター 特任研究員)



【案内文】
2018年7月17日(火)に、大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構 ステューデント・コモンズ1階 カルチエ・ミュルチラングにおいて、「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)を開催します。今回のゲストは、京都大学のカール・ベッカーさんです。※使用言語は日本語で通訳などはありません

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■第39回STiPS Handai研究会
○題目:日本人の死生観から生命倫理を学ぶ
○ゲスト:カール・ベッカー 氏(京都大学 学際融合教育研究推進センター 特任教授)
○日時:2018年7月17日(火)16:20~17:50
○場所:大阪大学豊中キャンパス 全学教育推進機構
    ステューデント・コモンズ1階 カルチエ・ミュルチラング

○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:件名を「第39回STiPS Handai研究会・参加申込」として、
①氏名(ふりがな)②所属を明記のうえ、stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp
([at]は@にして下さい)までお送りください。

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点
○共催:大阪大学COデザインセンター

概要
これまでに大学で教えられてきた「倫理学」は、旧来の西洋哲学史や倫理理想論を紹介するだけで終わってしまう傾向にあった。このような講義から現代の日本人学生はプラトンやカントの机上の知識に触れることができても、人生の意味を見出し、より倫理的な存在になれるわけではない。これに対し、西洋より東洋、過去より現在と未来、理論より実践に重点を置き、現代社会が直面する倫理崩壊という問題を少しでも打開できる教育および研究を一緒に考えたい。

プロフィール
1951年米国生れ。ハワイ大学東西センターより東西比較哲学の分野で修士号を得て、数年にわたって京都大学等で研究し、1981年に同センターより博士号を取得。ハワイ大学、大阪大学、筑波大学等の教歴を経て、現在、京都大学「政策のための科学ユニット」特任教授。米国宗教心理学会より「アッシュビー賞」、国際教育研究学会 (SIETAR)より「国際理解賞」、インドの大学より名誉博士号を受賞。生命倫理・医療倫理等の研究で国際的に活躍。著書には、例えば『愛する者は死なない』、『愛する者をストレスから守る』、『愛する者の死とどう向き合うか』(全、晃洋書房より)。