宇宙開発プロジェクトとコミュニケーション 「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)(33)開催

 2017年12月12日(火)に、大阪大学 吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロンにおいて、「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)が開催されました。今回は、「宇宙開発プロジェクトとコミュニケーション」というタイトルで、ゲストには宇宙航空研究開発機構(JAXA)の筒井史哉さんをお招きしました。授業「科学技術コミュニケーション入門B」に履修登録をしている学生さんに加えて、外部の方、大阪大学教職員など計13人が参加しました。

 筒井さんは東京大学工学部航空学科をご卒業後、宇宙開発事業団(NASDA)(JAXAの前身の1つ)に入社し、国際宇宙ステーション(ISS)に関わるお仕事、特に日本実験棟「きぼう」の開発に十数年従事されていました。その後は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の経営推進部にてお仕事をなさっています。国際宇宙ステーション(ISS)や筑波宇宙センターの試験設備について、図や写真を使いながら紹介してくださりました。

 JAXAが担っているのは、宇宙関連事業に関して、政府、研究者、メーカー、海外宇宙関連機関、そして国民の間を仲介するという役です。分かりやすく例えで説明すると、仮に政府から「新たなGPS衛星がほしい」といった要望が来たとします。そうしたときに、JAXAの持つ宇宙の知見を駆使して、そもそも財政的・技術的に新たなGPS衛星を作ることができるのかといったことを中央省庁と相談したり、搭載すべき機能を明確化して具体的な設計案や企画実行の手順を整えて企業に発注をしたり、国民にその意義を説明し是非を問うたりする必要があります。要するに宇宙に関する漠然とした要望を具体的な設計案に変え、実行に移すことが、JAXAにとっての重要な仕事だということです。

 筒井さんは他の事業とは違う宇宙事業ならではの開発に伴うリスクとして、次の2点を挙げられていました。
1)宇宙の環境は、未だに解明されておらず設計の際に明確な条件設定がし難い場合がある点、また、解明されていても地上の試験で再現できない場合がある点
2)いままでに無いものを開発する場合はとくに、ユーザーの要望が曖昧であることが多い点
 リスクをとって条件を設定したり、曖昧な要望を具体的な設計に落とし込んだりするのがJAXAの役割だそうです。

 さらに、宇宙事業に関して、「JAXAとメーカーとのコミュニケーション」、そして「JAXAと国民のコミュニケーション」についてもお話がありました。まず、JAXAとメーカーとのコミュニケーションの際に気をつけているのは、以下のことだそうです。
・情報伝達は必ず後に残る形ですること
・読んだ、見た相手が自分と同じものを想像できるような資料を作ることに細心の注意を払っていること
 誤解されないように、そして、曖昧さをできるだけ消すように心がけるのだそうです。宇宙ステーションの他国のモジュールとのインタフェースの設計でも、ミリ、マイクロ単位での誤差が動作の成功失敗に関わって来るため、細密な心遣いをしているそうです。

 JAXAと国民のコミュニケーションにおいては、以下のことを大切にされているとか。
・「face to face」で気持ちを伝達すること
・情報の示し方は相手に合わせて考えること
 わからないことはわからないと伝える。現在の時点でわかっていることをできるだけ詳細に、早く伝える。そうすることが、今回の失敗の経験を踏まえ次に向けて真摯に取り組んでいるということを理解してもらうために重要だということを、天体観測衛星「ひとみ」の失敗のときの経験を踏まえながらおっしゃっていました。

 以前は、プロジェクトの成果の説明や宣伝が主だったという「JAXAと国民のコミュニケーション」ですが、最近では徐々に計画段階に多様な人々を巻き込むというタイプのコミュニケーションにもチャレンジしつつあるそうです。2017年12月8-9日に開催された「月極域に関するワークショップ」がその1例として紹介されました。月探査に関する専門家だけではなく、別の分野の研究者や民間企業、一般の方を対象にしたワークショップでした。

 最後の質疑応答の時間では出席者からたくさんの質問が飛び出しました。例えば「宇宙関連技術は、もうアメリカやEUに任せてしまってもいいのでは?ということはありませんか?JAXAがわざわざ独自に取り組んでいる意義はどういうところにあるのでしょう?」というもの。筒井さんは、「世界に負けない技術的な競争力を日本企業につけてもらいたい。将来に向けて国内に技術を残し、産業を育てることができるという意義もあるのではないか」というお答えをされていました。

 JAXAは宇宙の謎を解明すべく宇宙探査の計画・設計をしているのみならず、宇宙の持つ神秘性・未来性に対する国民の関心を損なわないようなコミュニケーションにも努力している、ということを理解できた、密度の高い90分の研究会でした。

文:平田了也(人間科学部2回生)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員


【案内文】
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■第33回STiPS Handai研究会
○題目:宇宙開発プロジェクトとコミュニケーション
○ゲスト:筒井 史哉 氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)経営推進部 次長)
○日時:2017年12月12日(火)16:20~17:50
○場所:大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロン

○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:件名を「第33回STiPS Handai研究会・参加申込」として、
①氏名(ふりがな)②所属を明記のうえ、stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp
([at]は@にして下さい)までお送りください。

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点