自然史博物館が創りだす新しいコミュニケーションのかたち 「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)(32)開催


 2017年12月5日(火)に、大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロンにて、第32回STiPS-Handai 研究会「自然史博物館が創りだす新しいコミュニケーションのかたち」が開催されました(授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催)。この日は、授業「科学技術コミュニケーション入門B」に履修登録をしている学生さんに加えて、外部の方、大阪大学教職員など計11人が参加しました。

 今回は、兵庫県立人と自然の博物館で主任研究員をされている三橋弘宗さんを講師にお招きしました。50分ほど三橋さんのお話を聞いた後で、質疑応答に移りました。

 もともとは土木工学を専攻されていたという三橋さん。その後、基礎理学や陸水学、保全生物学へと活動のフィールドを広げてこられました。今は環境保全学や生態系保全学に深く関わっておられますが、これまでの多様な分野での研究経験が現在の活動につながっているそうです。

 講演の中で紹介された三橋さんのお仕事の一つに、昆虫や植物などを樹脂で固めて作る「触ることができる(ハンズオン)標本」があります。この標本により、博物館を訪れた人がその動植物をより身近に感じることができます。この標本作成技術を、兵庫県内の高校のキノコ部に提供したりもしています。開催したキノコ展のリアルな展示は共感を呼び、多くのメディアでも紹介されました。キノコ部の部員の中には、大学に進学してさらに研究を深めたいと考える人や、学校教員を志望する人、活動を通してシミュレーション技術を学んだ人など、部員のそれぞれが科学と関わるような良い影響が生まれました。さらに、高校の美術部にポスターを作成してもらったり、これまでのキノコの収集活動の記録からデータベースを作って解析したり、キノコ展示の場を広げるなど、より多くの人がこの活動を認知し、関わるようになったそうです。このように、「一見難しくて、出来ないと思ってしまう」技術を誰もが作成できるようにダウンサイジングした結果、キノコ部の活動のように、様々な成果を生み出し、多くの人に認められ、影響を与える「科学コミュニケーション」が行われたことが分かりました。これは博物館ならではの取り組みです。難しそうなことを誰でもできそうだと思ってもらうことでさまざまな展開が生まれていました。

 このほか、行政に依存しすぎずに自然再生を確実にする「小さな自然再生」のプロジェクトにも関わっておられました。小さな自然再生とは、自分たちで調達できる予算の範囲で、計画や作業に様々な人が参画し、手直しや撤去も速やかすることができる自然再生のことです。小さな自然再生では、大きな事業と違い一人一人が少しずつできるレベルで続けていくことを特に大切にしています。その小さな成功を続けることで自治体や地域も認め、動いてくれるようになると話されていました。例えば、川にある段差によって、オオサンショウウオがその段差を自力でのぼれず上流で産卵できなくなっているところがありました。そこでオオサンショウウオでも登ることができるように、石を詰めた枠を積んで一段あたりの高さを低くするという改善を行いました。これは行政に工事を頼んだのではありません。ほかにもこういった自然再生が市民活動として実践・継続されているそうです。

 今年の夏大きく騒がれたヒアリの問題にも、三橋さんは日本生態学会の近畿地区会の会長として関わることを余儀なくされました。過去、セアカゴケグモが発見されたときには、研究者間のコンセンサスがなかったり、一部の研究者に負担が集中したりしていました。その時の経験を踏まえ、今回は、全国の博物館や研究施設でネットワークを作り、ヒアリの標本や情報を、研究者や行政、民間企業で共有することで、各地で発見されるアリの鑑定や専門家がサポートする体制を全国に整えたそうです。日本生態学会として国土交通大臣と環境大臣に要望書を提出する際にも、担当者として三橋さんが大きな貢献をされたそうです。

 ここからは会場からの質問に答える形でお話が進みました。「高校生への指導に際して工夫している点は?」という質問には、「生徒に自分でなんでもやってもらう。生徒の興味に合わせて次のステップを生徒自身にさせることを大切にしている。」とおっしゃっていました。先生主導ではなく生徒が中心になって進めることで、将来科学に携わる人材の育成にもつながっているのではないかと感じました。他にも「市民の人と一緒に活動をするときに、“本当はもっとこうして欲しかったのに”ということはあったりするものですか?」「多様な活動はどのようなきっかけで始まるのでしょう?」といった質問が出ていました。

 三橋さんは博物館の立場で行政の内側と外側に適度な距離感で関わり、学校教育とも連携しながら生態系管理が循環する仕組みをつくることに取り組まれていました。これらのお仕事は、多岐の分野にわたっており、すべてを通して様々な「科学コミュニケーション」が行われていることが分かりました。

文:新貝 桃佳(医学部4回生)、「科学技術コミュニケーション入門B」担当教員

【案内文】
2017年12月5日(火)に、大阪大学 吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロンにおいて、「公共圏における科学技術政策」に関する研究会(STiPS Handai研究会)を開催します。今回のゲストは、兵庫県立人と自然の博物館の三橋弘宗さんです。
(*授業「科学技術コミュニケーション入門B」の一環として開催します)。

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■第32回STiPS Handai研究会
○題目:自然史博物館が創りだす新しいコミュニケーションのかたち
○ゲスト:三橋 弘宗 氏(兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員)
○日時:2017年12月5日(火)16:20~17:50
○場所:大阪大学吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階 交流サロン

○参加:当日参加も可能ですが、できるだけ事前のお申し込みをお願いします。
○申込方法:件名を「第32回STiPS Handai研究会・参加申込」として、
①氏名(ふりがな)②所属を明記のうえ、stips-info[at]cscd.osaka-u.ac.jp
([at]は@にして下さい)までお送りください。

○主催:公共圏における科学技術・教育研究拠点